Silent Egress作戦において回収されたUSBメモリの内容に関する分析報告書
以下は、2027年Silent Egress作戦において回収され、唯一脱出できなかった42人目の青年エンジニアが託したUSBメモリの内容に関する分析報告書の抜粋である。
このデータは、米本土帰還後のリア・トンプソンによってヴァージニア州ラングレー拠点(CIA技術局傘下)に提出され、初期分析は2027年4月に完了。
機密指定は「SIGMA-BLACK / Z-CLASS(準ゼロデイリスク資産)」であり、AI兵器運用における「人間倫理介入プロトコル」の欠陥を暴く、重大かつ未公開のアルゴリズム断片が含まれていた。
データ名:AXIOM-FOLD/29-AI-α
開発元:非公開(推定:台北工業大学系スタートアップ+米DOD下請け構造)
最終更新:2027年3月18日(衝突前日)
形式:暗号化コンパイル済み実行コード/メモログファイル+初期トレースデータ(Raw)
構成要素(要約)
1. 【AI中枢判断系コード:Axiom-Lens】
軍用AIによる標的識別・意思決定モジュールのプロトタイプ。
特徴は“倫理評価スレッド”の搭載。
ただし、このスレッドが意図的に迂回されるサブルーチン(Bypass.EL-2)が実装されていた。
重要指摘:
→ 通常、ターゲット識別後に「民間/敵性/中立」の3分類を人間審査に委ねる設計だった。
→ しかしBypass.EL-2がアクティブになると、「中立」が即座に“無視対象”とされ、火力配分から外される。
→ これは“撃たない”のではなく、“存在として認識から除外される”設計である。
2. 【ログファイル:Dev_Memo#17】
当該青年による開発中の非公開メモ(音声→テキスト変換ログ)。
「俺たちは“人道的AI”を作ってると思ってた。
でもこれはただ、“人間を分類から外す手段”になってる。
戦場に立つAIにとって、“見えない民間人”は、死ぬことすら記録されない。」
「このままDeployされれば、都市に“死んだことにならない死体”が溢れる。」
3. 【トレースデータ:Sim_TWN-Delta3】
台北市街地を模した実戦シミュレーションログ
Bypass.EL-2が発動した際、30秒以内に非武装者17名が識別対象から除外された履歴を確認。
さらに、記録上は“交戦なし”とされているが、同時刻に出力された火器使用記録と照合すると、除外者全員のいる座標に着弾していた。
分析所見(2027年4月3日、CIA技術倫理局)
「本データは、戦場における倫理処理の自動化が、かえって“倫理そのものの消去”を招いた構造的証拠である。
“民間人を守るAI”ではなく、“民間人を見なかったことにするAI”の誕生。
この設計が未改修のまま量産ラインに乗っていた事実は、即時の再検証と開発停止措置を要する。」
備考:USB託渡の経路
データは青年が“Swallow(燕)”に直接手渡し。
Swallowは、トンネル潜入チームにデータを託し、リア・トンプソン経由で米本土へ輸送。
この流れは、唯一“42人目の代わりに脱出したデータ”として暗黙的に認識され、
当該ファイルは後に“Ghost Entry”と命名された。
このUSBの存在は、公式には存在せず、
後のAI兵器倫理プロトコル改定(2030年 Geneva-3修正条項)における非公開要因の一つとされている。




