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日本の民間報道機関「○○新聞」国際部記者

次に記録するのは、2027年の台海軍事衝突に際して、台湾・台北に駐在していた日本の民間報道機関「〇〇新聞」国際部の記者、柚木 ゆのき・りょう氏(当時38歳)の証言である。


柚木氏は、衝突前から台湾政治・中台関係を専門に現地取材を行っていた数少ない邦人記者であり、開戦後は台北市内からの脱出を拒否し、非常態勢下での実地報道を続けた。

彼の証言は、報道の自由と国家の沈黙が交差した瞬間に、ジャーナリズムがどのように立ち向かい、あるいは封じられていったかを明確に描き出す。


PTFインタビュアー

「柚木記者、あなたは2027年の台海衝突当時、台湾に常駐し、開戦当夜も台北にいた数少ない日本人報道関係者の一人だ。

まず、爆撃が始まったとき、報道現場はどう動き、何を記録し、何を“出せなかった”のか?」


柚木 遼(〇〇新聞・国際部 記者):

「午前4時、最初の報が入った瞬間に編集部のVPNが遮断され、“取材より退避”の社内通達が出た。

でも、私たちは“退避すれば空白になる”という判断で、5名の現地スタッフと残りました。


まず起きたのは、“検閲の発生”じゃない。“情報空間そのものの蒸発”でした。

政府公式のSNSは更新が止まり、電話網は即時に落ち、我々が最初に使えた通信手段は国際用の旧式衛星電話と、紙のノートだけでした。


記録はできた。だが、伝える手段がなかった。

市街で撮った写真、火災現場、避難民の表情――それらはSDカードに“保存されただけの事実”になった。

そして何より痛感したのは、“出せない報道は、存在しない現実”として処理される”ということだった。」


PTF(補足質問):

「その後、台湾当局は報道機関に一時的な“統制協定”を打診したと記録されている。

現場記者として、それをどのように受け止め、対応したのか?」


柚木 遼:

「はい、3月19日午後、臨時メディア連絡室に呼び出され、“情報一元化要請”を受けました。

内容は明確で、


“軍事作戦位置は報道しない”

“死者数は政府発表に基づく”

“政府批判は緊急時表現規制法に抵触する可能性あり”


私は署名しませんでした。

だがそれは“反抗”ではなく、“沈黙の中で生き延びる道”を探す選択でした。

我々はその日から“送信しない記事”を毎日書いた。誰にも届かない草稿。

それでも記録し続けた。

なぜなら、“誰にも伝えられなかった現実”こそ、後で国家がなかったことにする対象になると知っていたからです。」


PTF(追加質問):

「あなたはその後も台湾に残り、戦後に“非公開草稿”の一部を公開したとされている。

今、振り返って、戦場でジャーナリズムは何を守り、何を失ったと思うか?」


柚木 遼:

「守れたものは“人の証言”です。

避難所の子供、亡くなった看護師の手帳、焼けた店舗のオーナー。彼らの言葉を、“発信はできなくても、記録として残す”ことはできた。


失ったものは、“即時性”です。

ニュースが止まった瞬間に、人は“その都市で何も起きていない”と思ってしまう。

それが一番怖かった。“無音”は中立ではなく、加担になると実感しました。


2027年の台湾で、我々はジャーナリストではなく、“非公式な目撃者”だった。

だが、その目が残ったから、後になっても“あれは起きた”と言える。

それで十分だったと思います。少なくとも、私にとっては。」



この証言は、2027年の台海衝突において、爆撃よりも先に封じられた“言葉と映像”、

そして自由主義国の記者ですら、“記録はしても発信できない”という壁に直面した現実を物語っている。

柚木氏のような現場記者の記録は、戦争の物理的被害ではなく、情報空間そのものが“戦場”となった事実を証明する歴史的証言である。

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