非公表脱出支援作戦に関与した米陸軍特殊部隊員
次に記録するのは、2027年台海衝突初期、台湾本島において“非公表脱出支援作戦(OPERATION SILENT EGRESS)”に関与した米陸軍特殊部隊の元隊員、コードネーム「RAVEN-4」による証言である。
この作戦は、3月19日から22日にかけて、台北・新竹・高雄に点在していた米系企業要員、諜報協力者、そして在台情報資産を秘密裏に本土から退避させる任務であり、公式記録には残されていない“存在しない任務”として処理されている。
RAVEN-4は、当時米陸軍特殊作戦司令部(USASOC)傘下の第160特殊作戦航空連隊(Night Stalkers)と連携して台中に潜入、現地NOC(非公然協力者)の引き出しを支援したとされる。
PTF:
「“RAVEN-4”、あなたは2027年3月の台海衝突時、“存在しない任務”に従事していたと記録されている。
作戦の全体像には機密性が高いことを理解しているが、可能な範囲で、何が行われていたのか語ってほしい。」
RAVEN-4(元・米陸軍特殊部隊作戦要員):
「作戦名は**“Silent Egress(無音脱出)”。我々の任務は“人を消す”ことだった。つまり、国家として存在しない人々を、国家の影に隠して退避させる。
対象者は全部で42人。内訳は:
13人:元米軍民間協力者(翻訳・物流)
9人:台湾人エンジニア(情報通信/半導体設計)
6人:中国本土から脱走した諜報協力者(深セン系)
残り:軍籍を持たない戦略研究者、AI開発者、協力企業役員など
我々は3月19日深夜、台中近郊に小型VTOL機で侵入。拠点を設定し、48時間以内に3つのゾーンから対象を回収。
移送ルートは高速道路、下水管、封鎖された高速鉄道トンネルを利用。すべて**“市街戦の混乱に乗じた合法風の偽装”**が前提だった。」
PTF(補足質問):
「それだけの作戦を、市街地で、しかも国家の正式介入なしに実行する。
緊張と危険は極限だったはずだ。
特に印象に残っている場面、または失われたものがあれば語ってほしい。」
RAVEN-4:
「最も忘れられないのは、回収対象者の“拒絶”だ。
ある台北の若いエンジニア、26歳。彼は米国防支援AIの開発下請けに協力していたが、我々が迎えに行ったときにこう言った。
“俺は帰らない。ここで逃げたら、家族はもう生きられない。”
彼の自宅はすでに被弾していた。我々には時間がなかった。
彼はUSBと小さなメモを我々に渡し、“データは届けてくれ。俺の代わりに”と。
その夜、我々は41人目を回収できたが、42人目の空席だけがヘリの中に残った。
あれは座っていない椅子だった。だが、最も重い存在だった。」
PTF(追加質問):
「この任務を終えたあと、あなたは軍を離れたと記録されている。
理由は語られていないが、個人的に、この作戦が何を意味していたのか教えてほしい。」
RAVEN-4:
「戦争は、何かを守るためにあるって教えられてきた。
だが、“Silent Egress”は守るために、置いていくことを選ぶ作戦だった。
我々は成功した。対象は無事に出国し、米本土の防衛研究機関に再配属された。
だが私は、その帰還報告の裏にあった“残された都市”を忘れることができなかった。
我々は人を救った。だが都市は、そのまま瓦礫の上で呼吸していた。
私はそれを見て、“戦争が終わった”とは口にできなかった。
だから私は除隊した。“帰れる者”の役割はそこで終わったが、“残る者”の物語はまだ続いていたからだ。」
この証言は、国家という枠に記録されない“戦場の陰の回収戦”――
すなわち、価値ある命と機密が天秤にかけられ、“存在ごと消される形で救われる”という特殊戦の現実を露わにする。
“RAVEN-4”のような人物が記録に現れることは稀であるが、
その証言が示すのは、戦争の裏に潜む静かな選別と、沈黙の倫理である。