表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/45

非公表脱出支援作戦に関与した米陸軍特殊部隊員

次に記録するのは、2027年台海衝突初期、台湾本島において“非公表脱出支援作戦(OPERATION SILENT EGRESS)”に関与した米陸軍特殊部隊の元隊員、コードネーム「RAVEN-4」による証言である。

この作戦は、3月19日から22日にかけて、台北・新竹・高雄に点在していた米系企業要員、諜報協力者、そして在台情報資産を秘密裏に本土から退避させる任務であり、公式記録には残されていない“存在しない任務”として処理されている。

RAVEN-4は、当時米陸軍特殊作戦司令部(USASOC)傘下の第160特殊作戦航空連隊(Night Stalkers)と連携して台中に潜入、現地NOC(非公然協力者)の引き出しを支援したとされる。



PTFインタビュアー

「“RAVEN-4”、あなたは2027年3月の台海衝突時、“存在しない任務”に従事していたと記録されている。

作戦の全体像には機密性が高いことを理解しているが、可能な範囲で、何が行われていたのか語ってほしい。」


RAVEN-4(元・米陸軍特殊部隊作戦要員):

「作戦名は**“Silent Egress(無音脱出)”。我々の任務は“人を消す”ことだった。つまり、国家として存在しない人々を、国家の影に隠して退避させる。


対象者は全部で42人。内訳は:

13人:元米軍民間協力者(翻訳・物流)

9人:台湾人エンジニア(情報通信/半導体設計)

6人:中国本土から脱走した諜報協力者(深セン系)

残り:軍籍を持たない戦略研究者、AI開発者、協力企業役員など


我々は3月19日深夜、台中近郊に小型VTOL機で侵入。拠点を設定し、48時間以内に3つのゾーンから対象を回収。

移送ルートは高速道路、下水管、封鎖された高速鉄道トンネルを利用。すべて**“市街戦の混乱に乗じた合法風の偽装”**が前提だった。」



PTF(補足質問):

「それだけの作戦を、市街地で、しかも国家の正式介入なしに実行する。

緊張と危険は極限だったはずだ。

特に印象に残っている場面、または失われたものがあれば語ってほしい。」


RAVEN-4:

「最も忘れられないのは、回収対象者の“拒絶”だ。

ある台北の若いエンジニア、26歳。彼は米国防支援AIの開発下請けに協力していたが、我々が迎えに行ったときにこう言った。


“俺は帰らない。ここで逃げたら、家族はもう生きられない。”


彼の自宅はすでに被弾していた。我々には時間がなかった。

彼はUSBと小さなメモを我々に渡し、“データは届けてくれ。俺の代わりに”と。

その夜、我々は41人目を回収できたが、42人目の空席だけがヘリの中に残った。

あれは座っていない椅子だった。だが、最も重い存在だった。」



PTF(追加質問):

「この任務を終えたあと、あなたは軍を離れたと記録されている。

理由は語られていないが、個人的に、この作戦が何を意味していたのか教えてほしい。」


RAVEN-4:

「戦争は、何かを守るためにあるって教えられてきた。

だが、“Silent Egress”は守るために、置いていくことを選ぶ作戦だった。

我々は成功した。対象は無事に出国し、米本土の防衛研究機関に再配属された。

だが私は、その帰還報告の裏にあった“残された都市”を忘れることができなかった。


我々は人を救った。だが都市は、そのまま瓦礫の上で呼吸していた。

私はそれを見て、“戦争が終わった”とは口にできなかった。


だから私は除隊した。“帰れる者”の役割はそこで終わったが、“残る者”の物語はまだ続いていたからだ。」



この証言は、国家という枠に記録されない“戦場の陰の回収戦”――

すなわち、価値ある命と機密が天秤にかけられ、“存在ごと消される形で救われる”という特殊戦の現実を露わにする。

“RAVEN-4”のような人物が記録に現れることは稀であるが、

その証言が示すのは、戦争の裏に潜む静かな選別と、沈黙の倫理である。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ