あなたへ
お久しぶりです。
ここは最近寒くて、厚手の上着が手放せませんね。この間、風邪をひいてしまいました。くしゃみや咳が大変だったのですよ。あなたは私が見ている限りだと元気そうでなによりです。
さて、私が今回こうして筆を握っている理由は、あなたがご結婚なさると聞いたからです。今までずっとあなたのそばにいた私としては、何らかの形でご挨拶させていただきたいと思っておりました。しかし、今さら面と向かって言うのは少し気恥ずかしいという思いもあり、手紙で失礼しようと思い至った次第でございます。
こうしてあなたの顔を思い浮かべながら書いていると、色々な記憶が次々とよみがえって参ります。
私とあなたが出会ったのは、たしか小学校一年生のときでしたね。体が弱く、いじめられっ子だった私を助けてくれたのは、あなただけだったと記憶しております。すでにあのときからあなたは少女と思えないくらいたくましく、それでいて可憐で、私はすぐに魅了されました。友達が多く、人望も厚い。あなたは皆の憧れの的でしたね。あなたのことが好きだという男も、数多く見受けられました。知っていましたか? 私も小学校に通っていた六年間、ずっとあなたが好きだったのですよ。
中学校に入ってから、私の体調は徐々に良くなり、あなたと話す回数も減りました。二年生の時だったでしょうか。また一段と可憐になったあなたに恋人ができたのは。あのとき私は、諦めようとしました。しかし、あなたの笑顔は私を拘束しました。忘れられなかったのです。そうして私は、中学校に通っていた三年間も、ずっとあなたを思い続けることとなりました。
高校は、もちろんあなたと同じ学校を選びました。もっといい学校に行く、という選択肢は、私の頭の中にはありませんでした。あなたはまだ恋人と別れていなかったけれど、それでもあなたに近づきたくて、私はがむしゃらにあなたを追いかけました。この頃から、あなたの様子はおかしくなりました。私が勉強を教えようとしても、風邪をひいたときに家を訪ねても、あなたは私に笑いかけてくれなくなりました。あなたが落とした消しゴムを拾おうとした私を、思い切り突き飛ばした日もありましたね。私はあなたが心配でたまらなくなりました。恋人に何かひどいことをされ、男性不信にでもなってしまったのかと思いました。そして、もしそうであったならば、私はあなたを全力で守り抜くしかないと思いました。
高校卒業後、恋人に拘束され続けているあなたを助けるチャンスを見出すため、私は大学には進学せずに、遠くからずっとあなたを見守ることに決めました。専門学校に進学したあなたは、恋人と登下校を共にすることを余儀なくされていました。かわいそうに、手まで繋がされて、とても見ていられませんでした。一年ほど経ったいつもの帰り道で、あなたは後ろをついていく私の姿に気づきましたね。あのときのあなたの顔は忘れられません。目に涙をいっぱいに溜めて、早く助けてくれと言わんばかりに顔をくしゃりとゆがめていました。しかし結局、私はあなたを助けることができませんでした。恋人があまりにもあなたのそばにいすぎるからです。あなたと恋人が同じアパートの一室で暮らし始めた時には、あまりの執着具合に吐き気を催しました。最低の男です。一刻も早く始末を要するものだと感じました。
あなたは専門学校を卒業してから、駅前の美容室で働き始めましたね。恋人は別の職場でした。私は、やっとチャンスを見出せた気がしました。
そろそろ決着をつけようとした昨夜、あなたは恋人とレストランに行き、そこで結婚の申し込みをされていました。あなたは涙を流していましたね。嫌だったのでしょう。でも、逆らえないから。あなたは渋々といった表情で、黙って一度頷いていました。
それからアパートに戻ったあなたは、恋人から虐待を受け、深く眠りについてしまいました。恋人は汚らわしい手であなたの頬を撫でまわし、口付けました。そして、あなたに下着とパジャマを着せました。私はそんな恋人の背後に立ち、遂に、あなたを解放することに成功したのです!
あなたがこの手紙を読んでいる時、もうあなたの傍にあの男はいないでしょう。今までよく我慢しましたね。あなたは本当に強い。そしてどこまでも可憐だ。そんなあなたに、私からささやかなプレゼントがあります。
押し入れの天井に隙間があるので、覗いてみてください。
きっと驚きますよ。
初投稿となります。
最初はジャンルをホラーにしようかとも思ったのですが、悟られたくないという思いもあり、恋愛というジャンルで投稿させていただきました。
拙くて申し訳ありません……。ていうか小説なのかこれは……。
読んでくださった方々に感謝です。