華燭の典
智樹と香澄の結婚式と披露宴は、智樹の父の思い通りに執り行われました。
神社での挙式、料亭での披露宴。
お金は智樹の父が出すと言って聞きませんでした。
智樹も香澄も「それでは意味が無い。お金は二人で用意するものだ。」と最後まで抵抗しましたが、無駄に終わりました。
花嫁衣装は和歌山から持って来てくれた大叔母の話を聞いて、香澄自身が持って来てくれた衣装を着ることを望みました。
花嫁衣裳には歴史も意味もあり、簪にも意味があったと知ったからでした。
これが、貸衣装だったら着なかったと香澄は言いました。
花嫁衣裳を持って来てくれた和歌山の大叔母は、直ぐに和歌山に帰りました。
一緒に来ていた伯父は、「高齢だから帰ってゆっくり過ごさせたい。」と言っていました。
智樹と香澄の華燭の宴に、サッカー部の面々も居ます。
真帆も居ます。真帆の隣には婚約者が居ます。
真帆の白無垢綿帽子姿を見た智樹は声が出ないくらいで………やっと「めっちゃ綺麗♡」と言うのが精一杯でした。
赤の打掛姿も、黒引き振袖姿も、智樹は「めっちゃ綺麗♡」しか言えませんでした。
披露宴で、花嫁衣裳の意味、挿している簪の意味、そして、それらが和歌山の家で代々受け継がれた物だと説明された時、披露宴会場に響きが起こりました。
真帆は二次会で香澄に言いました。
「香澄って良家の子女だったの?」
「違うわよ。和歌山のご先祖様だけよ。」
「ふぅ~~ん。でも、良かったね。いい結婚式だったわ。
神社の渡り廊下?だったけ…あそこを静々と歩いてる香澄。
映画みたいだった。」
「ええ~~~っ、そんないい物じゃないわよ。」
「否、素敵だった。隣の先輩なんか、時々盗み見てたよ。香澄の姿を…。
ベタボレじゃん。」
「そ…そんなこと…ないわよ。」
「またぁ~~~っ。いいなぁ初恋の君と結婚できるなんて!」
「真帆ももうすぐ結婚するでしょう。ムードメーカーの君と……。」
「ランクが下だけどね。」
「そんなことないよ!」
「そんなことない!ことにしとく。」
正樹が智樹に言いました。
「簪の意味、聞いてビックリしたよ。」
「うん。僕も……。」
「守ります。っていう意味で妻に贈るってカッコいいな。」
「うん。」
「お前、そのご先祖様に負けるなよ。香澄ちゃんを守ります!って気持ちで
過ごせよ。」
「おう! 兄さんも……ね。アフリカに行って、少し離れ離れになるけど……
簪に負けないように…な。」
「おう! 負けないよ。」
幸せでいっぱいでした。




