和歌山から来た大叔母
初夏を告げる雨上がりの暑い日に、和歌山から父の大叔母と伯父がやって来ました。
香澄にとって聞きなれぬ和歌山弁でした。
「大叔母さん、遠くからわざわざ香澄のために来てくださって……
ありがとうございます。
お疲れではありませんか?」
「そないなことありませんのとし。ええ旅でございましたのし。
旅費まで……気ぃ使わせてしまいましたのし。」
「それは、当たり前ですから……。」
「大叔母様、御久し振りでございます。」
「まぁ、ほんに、ほんに……。」
「大叔母様、香澄です。」
「まぁ、香澄ちゃん、大きゅうなりなさって…別嬪さんになりなさって……。
この度は、おめでとうございます。」
「ありがとうございます。」
「香澄ちゃんがどない思わはるか分かりませんのよし。
けんど、お父さんがの、香澄ちゃんに着させたい言わはったんやして、え。」
「本当に沢山、持って来て頂いて、ありがとうございます。」
「まぁ、見て頂かして。」
「まぁ、何人も着た花嫁衣装と思えないほど綺麗に保たれていらっしゃいます
ね。」
「そない言うて貰えると、お母さん、喜んでなさるわ……。
香澄ちゃん、私はもう90歳を超えてますよし。
これが最後でございますのし。最後にこの花嫁衣裳を持って来させて頂かし
て…… ほんに、おおきに。ありがたいことやと思うてますよし。」
「大叔母様……。」
「もう、手にすること叶わんと思うてましたのし。
ま一度、この手ぇに出来て、ほんに嬉しことでございますのし。
香澄ちゃん、おおきに。……おおきに。」
涙する大叔母の姿に香澄は困惑しました。
香澄のためにわざわざ和歌山から大叔母が持って来てくれた花嫁衣裳の品々は、大叔母の祖母の花嫁衣装で、明治に作られたものだそうです。
この花嫁衣裳をその後着たのは、大叔母の母親だったそうです。
持参された簪は、大叔母の祖母が祖父から貰った物が3本あるそうです。
簪を男性が女性に贈る意味を聞いた香澄は、「これは断れない!」と思うと同時に、明治の人も大切な人を思う気持ちは今と変わらないのだと思いました。
簪を男性が女性に贈る意味……
それは、婚約指輪のような意味であり、貴女を守ります!という意味があるのだと聞いて、香澄はこの簪を挿したいと思ったのです。




