結婚準備
香澄が「智樹さんと同じ大学に行きたい。」と言い、勉強に励みました。
無事に同じ大学に進学出来て、二人とも一緒に居られる時間が増えて幸せでした。
智樹が商社に就職した頃、兄の正樹は医師の第一歩を歩み始めていました。
医師の国家試験に合格し、大学病院での医師としての日々が始まったのです。
正樹も大学の頃からの恋人がいます。
香澄が銀行へ就職して直ぐの頃に、智樹はプロポーズしました。
場所とか智樹には考えられずに……いい雰囲気なども演出できずに……デートの帰りに香澄を家まで送って、もう家の近くという時でした。
急に言ったのです。
「香澄……、僕と結婚してください。」
「はい。」
言葉は大変短かったのですが、香澄にとって、これほど嬉しいことはありませんでした。
結婚式は神社で、披露宴は智樹の父の友人が経営する料亭で執り行う運びとなりました。
「智樹さん、豪華すぎるんじゃない? 私のお給料では無理だわ。」
「う~ん。僕もそう言ったんだけどね。 父がね……どうしてもって。」
「お父様が?」
「何だか、うちの第一号だっ!とか言って……張り切ってて…参ってる。」
「お金は? 凄く掛るでしょう?」
「友人価格だっ!とか言っちゃって……。父が教えてくれないんだよ。」
「払えなかったら……。」
「そうだよ。だって、結婚式で終わりじゃないんだから……。
僕たちの生活があるんだから……僕たちの払える金額でしないとな!」
「うん。」
「今日、また言う! ちゃんと勝手に決めないで欲しい!って……。」
「うん。お願いね。」
暴走は智樹の父だけではありませんでした。
香澄の母も………。
「香澄、神社で挙式するんだから、和装よね。」
「うん。そう思ってる。」
「じゃあ、白無垢綿帽子ね。」
「え?」
「今の子は、和装なのに、なんでか髪がね。文金高島田じゃないのよ。
変だわ。あんなの花嫁じゃないわ。」
「お母さん?」
「香澄は似合うと思うわ。文金高島田で、白無垢綿帽子………。
お色直しは、最初に赤い打掛で、次に黒引き振袖♡」
「お母さん、私、そんなに着ないわよ。それに文金高島田って何?」
「香澄、なんてこと言うのよ。ちゃんと歴史があるのよ。花嫁衣裳には…」
「でもね。結婚するのは、お母さんじゃないのよ。わ・た・し。」
「香澄、うちには代々続いた花嫁衣裳もあるんだからね。」
「要らないわ。そんな古い物、着られないじゃないの。古すぎて……。」
「何言ってるの!? いいお着物は古くても着られるのよ。
それにね、今よりも重厚なんだから…
帯も違うのよ。大叔母様の御衣装ですもの。今の袋帯と全く違うんだから!」
「はいはい。でも、着ません。」
「本当に違うのよ。今の袋帯は裏地は別の布だけど、大叔母様の帯は織なのよ。
全部、織なの。そんなの今は無いからね。」
「あ……はいはい。」
「和歌山から持ってきてくださるって! 良かったわ~♡」
「お母さん? 和歌山から持ってきてもらうって……勝手に決めたの?」
「だって、一人っ子の結婚よ。力が入るのよ。」
「もう……。やんなっちゃう……。」
「楽しみだわぁ… 花嫁衣裳の色、最初は白でしょう。」
「はいはい。」
「あれはね、貴方の色に染まります!っていう意味なのよ。」
「え? そうなの?」
「ええ、そうなのよ。」
「じゃあ、他の色は? 意味あるの?」
「あるに決まってるじゃないの! 赤い打掛は、赤子の心で嫁ぎます!
黒引き振袖の黒は、一度、貴方の色に染まったら二度と他の色には染まりませ
ん!っていう意味なのよ。」
「そうなんだ………。」
「香澄も、出来たら、離婚しない夫婦でいて欲しいわ。」
「結婚前から離婚って言わないでよ。」
「それは、私の母としての願いよ。勿論、智樹君が理由で何かあったら帰って
来なさい。いい? 我慢も妥協も必要よ。でもね………不倫されてまで…………
夫婦で居ることないからね。
香澄を大切にしてくれる男性だけに香澄の人生を委ねたいの。母として………。
お父さんにとっても、お母さんにとっても、香澄はとても大切な娘なのよ。
香澄、勿論……貴女も智樹さんに誠実に!よ。 不倫は許さないからね。」
「しないわよ。不倫!」
「縁あって一緒になるんですものね。末永く……二人で幸せになってね……。」
そう言って香澄の母は涙を拭いました。




