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慕情  作者: yukko
前の令和(一番古い智樹の記憶)
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それぞれの想い

正樹も智樹も無事に希望していた高校へ進学できました。

正樹は相変わらず勉学に励み、智樹は大好きなサッカー部に入り、二人共に高校生活をエンジョイしています。



正樹は相変わらずモテています。

通学中に他の高校の女の子から告白されたりしていますが、全て断っているようです。

それを、智樹は「勿体ない!」と言っています。



智樹は同じ高校のサッカー部のマネージャーから告白されて、初めてのお付き合いをしています。

ただ、好きかどうかと聞かれたら「分からない!」が智樹の本音でした。

クラブの皆の前で女子の「告白」を受けた場合、男子は断りづらい状況になるようです。

紗奈から告白された智樹は、囃し立てる周りが居て、その中の誰かの言葉で「断れない」と思いました。


「女子からの告白。断るって、ひでぇ~奴だよな。

 恥かかせるんだから…… 皆の前で………。」


智樹は「いいよ。」と一言だけの返事をしました。

それから、紗奈と付き合っています。

デートで行く先を決めるのも全て紗奈です。

それが、3年生になって変わりました。


新入生がサッカー部に入って来た日。

新しくマネージャーになった1年生の女の子が二人居ました。

真帆、そして、もう一人はあの図書館の女の子でした。


⦅嘘だろ…………。え? 何で? あの子が同じ高校に……。

 名前……香澄………。⦆


香澄が入学して、しかもサッカー部に入部したのです。マネージャーとして………。

智樹の心臓は鼓動を打ちました。

それからというもの……紗奈との関係はぎくしゃくしました。

智樹のことを好きな紗奈は、直ぐに智樹の心の揺れを感じたからです。


「智樹。貴方、あの子のこと、好きなの?」

「えっ? なんで?」

「だって、見てたら分かるもん。目で追ってる。あの子を……。」

「そ、っかな?」

「私だって、分かってるのよ。」

「紗奈?」

「私のこと好きじゃないのに、智樹が付き合ってくれてるってこと……。」

「……紗奈……。」

「だって、私、智樹に断られないように皆の前で告ったから……。」

「紗奈………。」

「智樹、あの子のこと以外、見れてないじゃん。私を見てよ!」

「紗奈、僕は……紗奈のこと好きだよ。」

「智樹の好きと、私の好きは違うのよ。」

「紗奈……、僕にどうして欲しいの? 今の僕の気持ち…………。」

「言わないで!」

「紗奈………。」

「もう、分かってるから…… 無理だって…… 分かってるから……。

 もう、無理でしょう。無理して私と付き合ってくれてるだけじゃない…。」

「…………………。」

「智樹、あの子のこと好きでしょう。でもね、今、私と別れて直ぐにあの子に

 告らないで!! せめて、せめて………………。」


紗奈は泣いてしまい、後の言いたいことが言葉になりませんでした。

智樹と紗奈のお付き合いは、その日が最後でした。

智樹は紗奈が言おうとしていた言葉………「卒業までは誰にも告白しないで!」だと思いました。

紗奈の心を「好きでもないのに付き合ったから深く傷つけた」と分かっていました。

「せめて……。」の後の言葉を智樹は守ろうと思いました。



「紗奈! お~い、紗奈ちゃん!」

「何よ。」

「おめでとうございます! 晴れてフリーですな。」

「あんたって……。」

「これから本物の彼が出来るぜ。」

「本物?」

「そうだよ。お互いに好き同士の本物の恋人♡」

「……そうね。」

「もし、良かったら立候補するぜ♡」

「何言ってるの! あんたを選ぶわけないでしょ!」

「おっ……元気そうだ。良かった良かった。」

「あんたねぇ…。」

「じゃあ、いつか本物が現れますように!」

「そうね。ついでに、あんたにもね。」

「Oh! Thank you!」


この後、紗奈は大学で本物の恋人と出逢いました。

それから、この時のサッカー部3年のムードメーカーも……本物の恋人と出逢っています。



智樹は卒業式で香澄に渡した物がありました。

学生服の第二ボタンを香澄に渡したのです。


「香澄ちゃん、僕は…… 前に図書館で会ってるんだ。君と……。

 その時から……… 僕は、あのね……僕は……

 香澄ちゃんが……好きだったんだ。

 もし、良かったら……このボタン、貰ってくれる?」

「本当に?」

「う、うん。本当…に。」

「図書館から?」

「うん。」

「嬉しい!!」

「え?」

「私、先輩が好きです。」

「え?」

「あの図書館から、ずっと好きでした。」

「本当に?」


頬を染めて頷いた香澄の手に智樹は、そっと第二ボタンを渡しました。


「香澄ちゃん、僕と付き合ってください。」

「はい。」


智樹と香澄の恋が始まったのです。

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