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慕情  作者: yukko
前の令和(一番古い智樹の記憶)
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初恋の終わり?

智樹は図書館へ行く日が増えました。

図書館でしか会えない……いえ違いますね。

図書館でしか姿を見かけない女の子を一目見たいがために、図書館へ行っています。

兄の正樹は、最近、塾に行き初めて図書館には行かなくなりました。

今日も、勉強をしつつ……視線は一点に集中しています。

勉強が進んでいるとは言い辛い智樹でした。

いつも、あの子が座る場所付近に智樹の視線は注がれています。


⦅来た!!⦆


見ていない振りをしながら……その女の子を盗み見ています。


⦅可愛いなぁ~♡ あんなに可愛いからモテるだろうなぁ~。⦆


智樹の胸はドキドキしています。


⦅不整脈じゃないよ、な!?⦆


今日、智樹は気が付かなかったのです。ずっと見てしまったことに……。

あの子と目が合って、胸の高まりは最高潮になりました。

目を逸らすのが少し遅かったようでした。

あの子が智樹に向かって笑顔を見せてくれたのです。


⦅えっ? 笑った?⦆


智樹は思わず周囲を見まわしました。

その様子を見たあの子が笑っています。声を出さないようにしながら……。


⦅僕かな?………まさか……ね……。⦆


慌てて智樹は机の上に置いている本を手にして読み始めました。

しかし、内容が頭に入って来ません。

本で顔を隠しました。


⦅たぶん、見惚れている僕の情けない顔を見られた………。

 めっちゃ……恥ずかしい………逃げたい!………けど……

 あの子の笑顔、もう一度、見たいなぁ。⦆


時々、そっと本をほんの少しずらして、あの子を盗み見ました。

あの子が居る間、智樹は胸の高まりが抑えられず、終始、心臓が鼓動を打っています。

そして、胸が苦しくなるのです。

そっと盗み見た時、あの子は居ませんでした。

急にガッカリして心臓が大人しくなりました。


⦅勉強しないと、な。高校受験、受からないと…な。⦆


机に向かって、問題を解き始めました。




そして、銀杏並木が綺麗に黄色く色づいた頃、智樹が図書館に行き、いつもの席付近で筆記用具を置きました。

そして、本を取りに行くと………

そこに、あの子が居ました。

本を取ろうとしていたのです。

少し高い所にある本だったので、あの子には届きにくかったようです。

無意識に智樹は、あの子の後ろから手を伸ばして本を取りました。


「これで、いいのかな?」

「あ……… ありがとうございます。」

「い、いいえ。どういたしまして。」

「あの…… いつも同じ席にいらっしゃいますよね。」

「あ…… はい。」


⦅ヤバい! 怒ってるんだ…… 謝らないと……!⦆


「あ……ごめんなさい。悪気はないんです。」

「えっ? 悪気?」


⦅ヤバい! ヤバい! 間違ったこと言ったのかなぁ?⦆


「あ…の…… 近いの、嫌だったんですよね。

 もう、あの辺りに座らないんで、安心してください。

 じゃあ!」

「えっ?」


⦅もう、終わりだぁ~~っ!⦆


智樹は大急ぎで筆記用具を鞄に入れて、図書館を出ました。

気持ちが沈んでいきます。


「はぁ~~~っ。 何やってんだ……。 もう、帰ろう……。」


それから、智樹は図書館に行かれなくなりました。

智樹の初恋は、こうして終わったのです。

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