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慕情  作者: yukko
飛鳥
9/166

天智天皇

父・天智天皇からの返事がありました。

参内を許すと言うもので、日時も決められていました。

草壁も連れて行く許しも得ています。

夫・大海人皇子には舎人を通じて、参内の日時と草壁を連れて行くことも伝えました。

返事は「分かった。」と一言だけでした。


「草壁、前に話していた通りに今から天智天皇……。

 貴方のおじいさまに会いに行きますからね。」

「はい。」

「大伯皇女、大津皇子にも会えますよ。」

「はい。………あの…母上様。」

「何ですか?」

「……遊べますか?」

「勿論、おじいさまにお願いしてありますから。」

「そうですか!」

「嬉しそうですね。」

「久し振りなのです。大津皇子と遊べるのは……。」

「そうですか。」

「はい。」


従弟である大津皇子は草壁皇子より1歳下です。

二人はよく遊んでいました。姉・大田皇女が亡くなるまでは……。


天智天皇との面会の部屋へ案内されました。

静々と進んでいくと、父が玉座に座っています。

草壁は教えられたように頭を下げています。


「頭を上げよ。」


父の声でした。

ゆっくりと頭を上げました。

隣で草壁も頭を上げています。

見ると、乙巳(いっし)の変で父と同様に蘇我入鹿を倒した中臣鎌足が居ました。

天智天皇のすぐ傍に……。


「鸕野。久しいな。」

「お久し振りでございます。」

「息災か?」

「はい。お蔭をもちまして。

 天智天皇に於かれましては…」

「良い。」

「?」

「父と呼べ。」

「では、父上様」

「鸕野讚良皇女様、帝が『良い』と仰せでも『帝』とお呼びになるのが

 臣下でございます。」

「鎌足。」

「は!」

「良いのだ。父娘の久方ぶりの逢瀬ぞ。」

「は―っ!」

「良いのですか? 父上様とお呼びして…。」

「良いに決まっておろうが……。 

 のう。草壁……。」

「…………………。」

「鎌足、そなたのように堅苦しいことを言えば

 幼子はこのように怯えるではないかっ!」

「申し訳ございません。」

「草壁、来よ。」

「はい。」

「おじいさまと呼んでくれまいか。」

「はい。おじいさま。」


天智天皇は孫・草壁皇子(くさかべのみこ)を抱き上げて膝に乗せました。


「息災であったか?」

「はい。」

「そなたは身体が弱いと聞いておる。

 今日は顔色が良いように見ゆる。」

「草壁、おじいさまにお返事をなさい。」

「はい。大丈夫です。」

「おお、そなたは利口じゃ。」

「ありがとうございます。」

「鸕野、草壁の身体のこと気に掛けよ。」

「はい。心掛け致します。」

「草壁、今日は大伯皇女、大津皇子に会いに来たのであろう!?」

「はい!」

「あちらで待っておる。行って来なさい。」

「はい!」


天智天皇は草壁皇子を膝から降ろして、舎人に委ねました。

その舎人は、雄鹿でした。

鸕野讚良皇女は胸の高まりは抑えられずに、顔が熱くなっていくのを感じました。


⦅これは、鸕野讚良皇女の感情じゃない。

 私、香澄の感情。

 気づかれないように気を付けないといけない!⦆


父に見られてはならない姿なのです。

それは、父の傍に控えている中臣鎌足にも知られてはならない香澄の感情です。

息を整えて落ち着くよう自分に言い聞かせました。


「父上様。お願いがあって参りました。」

「そなたが朕に願いとは何ぞや?」

「大伯皇女と大津皇子を私に委ねて頂きたいのです。」

「そなたが…?」

「はい。姉上様が残されたお子たちです。

 今まで大海人皇子様の(やしき)で、草壁と共に育って参りました。

 姉上様が身罷(みまか)られた後、大海人皇子様の(やしき)

 草壁と共にお育てなさると思っておりました。

 それが、父上様がお引き取りになられました。」

「大海人皇子様の(やしき)で育てるべきと、そなたは言うのか!?」

「はい。」

「そなたが苦しむのに…か?」

「私が何に苦しむと仰せなのでございましょうか?」

「大海人皇子の息子は、高市皇子(たけちのみこ)、草壁皇子、そして大津皇子が居る。」

「はい。」

「大海人皇子の跡を継げるのは草壁と大津である。分かるな。」

「………それは、高市皇子(たけちのみこ)の母の身分が低いので

 継げる立場にならないということは理解しております。」

「そなたが草壁と大津を育てた後に、どちらを、そなたは選ぶのだ?」

「選ぶ……と仰せでございますが、選ぶのは大海人皇子様であらせられます。」

「そなたは、己が腹を痛めた息子が選ばれなくとも良いのか?」

「それは…… その立場になるのに相応しいのが大津皇子であれば、

 それで宜しいのではありませんか?」

「誠にそう思うのか?」

「父上様…。」

「そなたは、いつか、草壁に大海人皇子の跡を継げなくとも

 良いと言い切れるのか?」

「父上様…。」

「そなたは人の心が変わることを知らぬのであろうな……。」

「父上様………?」

「そなたが苦しみのを朕は見とうないのじゃ。」

「う・ふふふ……。」

「笑うようなことであるか?」

「はい。私のことなど、どうでもよいのではありませんか?」

「鸕野讚良皇女様、お言葉が過ぎます!」

「鎌足、下がっていよ。」

「帝……。承知いたしました。」


鎌足が下がり、舎人と鸕野讚良皇女だけになりました。


「父上様……。父上様にとって娘はただの道具でございましょう。」

「道具とな。」

「はい。いつ捨てても良い道具でございましょう。」

「確かに。 それは、大海人皇子も同じであるぞ。」

「はい。」

「鸕野、そなたは何を考えておる?」

「父上様、何ゆえに……何ゆえに……おじいさまを……

 謀反の罪に貶められたのですか?」

「古い話であるな…。」

「父上様、母上様はどんなにお辛かったか……。

 その身を……命を落とされるほどに心と身体を……。」

「母を思う気持ちを分からぬほどではない。」

「父上様、貴方様が今までなさって来られたことの中には

 無実の罪で命を、家族もろともに失った方々が何人いらっしゃるのですか!」

「鸕野……。」

「父上様にあの子たちを私は委ねられません。」

「鸕野、そなたに委ねることは無い。」

「父上様……。」

「朕には何故か男子は少ない。

 健皇子(たけるのみこ)は幼くして逝ってしまった……。

 あの子は言葉を話せずに、父と呼ぶことさえもないままに……

 逝ってしまった……。

 あの子は健ではない。分かっておる。

 だが、似た所を見つけたいのかもしれぬ……。

 それでは許せないか? 鸕野………。」

「父上様、私には委ねてくださらないのですね。」

「朕の元で育てる。」

「分かりました。

 父上様、お願いいたします。

 謀反とは無縁の子に……お願いでございます。

 そのようにお育て下さい。」

「相分かった。」


父が大津皇子をどのように育てるのか不安がいっぱいでした。

記憶に残っている大津皇子の死。

それは、鸕野讚良皇女が持統天皇になってから、夫・天武天皇が崩御してから、行われた謀反の罪による死罪だったという記憶です。

香澄の記憶の怖い持統天皇の姿です。

それは、父・天智天皇と同じことを行なったのです。


⦅無慈悲な悪役にはなりたくない!

 回避するために、どうすれば良いのかも分からない…。⦆


鸕野讚良皇女の中に天智天皇の姿を見つけてしまった恐怖が包み込んで居た堪れなくなるのです。

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