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慕情  作者: yukko
前の令和(一番古い智樹の記憶)
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雄鹿の記憶

私が前世の記憶を取り戻したのは、中大兄皇子(なかのおおえのみこ)様に従って遠智娘(おちのいらつめ)様の(やしき)へ行った時、そのお姿を拝した時でした。

まだ幼い鸕野讚良(うののさららの)皇女(ひめみこ)様の御姿を……。

一目でした。一目御姿を拝しただけでした。

その瞬間に前世の記憶が大きな波となって押し寄せて来たのです。

前世で愛する妻だった香澄。

それが、目の前にいらっしゃる鸕野讚良皇女様なのでした。

恋しい気持ちが止められなくなったのは、その瞬間からでした。

私は舎人になったばかりでした。


あれから、大津皇子様の覚えがめでたいということで、天智天皇様の舎人から大津皇子様の舎人になれました。

大津皇子様の舎人になれたら、私は鸕野讚良皇女様の御姿を拝することが出来るかもしれないのです。

その想いが強く、いつしか大津皇子様の舎人になることを切望するようになりました。

大津皇子様の舎人になれてから、二度も御姿を拝することが出来ました。


その後、幸いなことに鸕野讚良皇女様の舎人になれました。

常に鸕野讚良皇女様の御傍に居られることの幸せを感じていました。

鸕野讚良皇女様に妻のことを聞かれた時、私は答えました。


「妻は亡くなりました。」と………。


そうです。前世で妻は亡くなったのです。

私の目の前で………。

ただ、現世では妻を娶っていません。

鸕野讚良皇女様には前世のことだけを話しました。

でも、鸕野讚良皇女様は思い出してくださらなかったように見えました。


鸕野讚良皇女様の最期の時には……私は前世と同じように一緒に逝きたいと思いました。

あの日、前世でのあの日、妻が……香澄が遊びで赤い糸を小指に括りつけました。二人の小指に……

そして、その直後に起きたのです。

気が付けば香澄は声も出ず、息もしていませんでした。

何度も「香澄!」「香澄!!」と、妻の名前を私は呼びました。

辛うじて繋がっているのは手と……赤い糸でした。

繋がっている手の温もりを感じられなくなっていったのです。

香澄は息を引き取ったのだと思いました。

それから、私も深い眠りについたのです。

あの前世の最期のように、私は赤い糸で鸕野讚良皇女様と私を繋げました。


もし、神が居るならば……もう一度、会わせて欲しい!

出来ることなら、今度こそは、妻を守りたい!……だから、妻に会わせて欲しいと祈りながら……

私は薄れていく意識の中で、もう一度!と祈っていました。

いつしか、私は、雄鹿は深い眠りにつきました。

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