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慕情  作者: yukko
令和
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失恋?

智樹に助けられた1月1日。

その後の1月5日に正樹からメッセージが届きました。


「香澄さん、無事だったと伺って安堵しました。

 また、おばあ様のお具合が悪いと聞きました。

 残りの日々、ご家族の皆様には想いを残すことなく過ごされますように…。

 僕は3月1日に一時帰国します。

 実は3月3日に結婚します。

 僕の婚約者には香澄さんのことを話しています。

 いつか、お会いしたいと彼女が言っていますので、出来れば3月2日に

 お会いできればと思っております。

 宜しければ、お時間を頂戴したいです。

 よろしくお願いいたします。」


正樹さんが……結婚…………ショックでした。

香澄は部屋の壁に飾っている大和三山を見ました。

大和三山が涙で霞んで滲んで見えました。


≋≄―――≄―――≄―――≄―――≄―――≄―――≄―――≄―――≄―――≄≋


3月2日の夜、正樹さんと結衣さんに会いました。

会う前に鏡の前で笑顔の練習をしました。

笑顔の練習をしている鏡の中の香澄に言いました。


「やっぱり、好きだったのよね。正樹さんのこと……

 先輩の言う通りだったのよね。

 今の私にとって……は……正樹さんだった……終わったけど、ね。」


笑顔の練習を終えて父に二人が待ってくれているホテルの正面玄関まで車で送って貰いました。

会っている最中も『ちゃんと笑えてるかな?』と、笑えているかどうかが心配でした。

同い年の二人は、とってもお似合いでした。


「結婚式は明日ですよね。

 これ……少ないですが…… お祝いです。

 それと、これも……。」

「あ、ごめんね。ありがとうございます。」

「これ、開けさせて頂いても宜しいでしょうか?」

「どうぞ。」

「まぁ~♡ 嬉しいわ。」

「ほんとだね。」

「お写真、いっぱい撮って入れてください。」


お祝いに渡したデジタルフォトフレームを結衣さんは気に入ってくれたようでした。


「香澄さん、あの大和三山、撮ったのは結衣なんだよ。」

「そうなんですか……。ありがとうございます。大切に飾っています。」

「まぁ、ありがとうございます。

 でもね……実は1枚は智樹君が撮ってくれたのよ。」

「そうだったのか…。」

「ええ、私が行けなかった時に撮ってくれたの。」

「そうだったんですね。」

「今だから言えるけど……少し離れていたのよね。私たち…。」

「そうなんですね。」

「医師として目指すものが違ってたのよ。

 私は最新の医療! この人は今一人でも多くの患者の命を救う。

 違ってて、それが原因で別れたんだけど……

 私は忘れられなかったのよ。ずっと………

 何回も後悔したの。ずっと………ね。

 そんな時に聞いたの。アフリカに行くって!

 もう、何もかも要らない!って思ったの。

 付いて行きたくて……。」

「そうそう。僕がアフリカに行くって聞いて来てくれたんだよ。」

「そうですか。」

「空港で結衣を見つけてビックリした。……嬉しかった………。」

「あの日、空港で私からプロポーズしたの。」

「まぁ……!」

「ビックリしたよ。空港で抱き付かれて……一緒に行く!って…」

「だって、一緒に行きたかったんだもの。」

「……アフリカと日本……凄い遠恋ですね。」

「そうだね。」

「でも、ご結婚なさるんですもの。深い愛で結ばれていらっしゃるんですね。」

「……深い愛って………恥ずかしいね。」

「恥ずかしいわ。」

「素敵です。とっても………。」

「ありがとう。香澄さん。」

「あの………結婚式の前日でお忙しいでしょう?」

「あら、気にしてくれて……可愛いだけじゃなくて、いい子ね。」

「前日だと結衣さんはご両親様と夕食、ご一緒でなくて良かったんですか?」

「いいのよ。一緒にヨーロッパに行くから……。」

「新婚旅行ですか?」

「うん。そうなんだ。僕の両親も一緒なんだ。」

「そうなんですね。」


二人が見つめ合い微笑み合っている姿を見て、胸が痛くなりました。


「香澄さんは? お父様が迎えに来られるのかしら?」

「はい。もうすぐ約束の時間です。」

「じゃあ、お待たせしたら悪いね。」

「そうね。」

「香澄さん、お祝い、二つも貰って申し訳ないですわ。」

「そうだよ。お金とこのデジタルフォトフレーム。」

「いいですよ。うちの施設の子ども達も先生にお世話になったんですから…。」

「それは仕事だから……。」

「でも、お世話になりました!」


頭を香澄が下げると、正樹は照れました。

照れた正樹の頬をそっと触れて微笑み合う二人……。

胸の痛みを無視して話をしているうちに父からのメッセージが届きました。


「父が到着しましたので、これで失礼します。

 本当におめでとうございます。末永くお幸せに!」

「ありがとうございます。」


正樹と結衣に別れを告げて、席を立ちエレベーターで下りました。

エレベーターの中に誰も居なかったので、涙は誰にも見られていません。

父には涙を見せないで、笑顔で「お父さん、迎えに来てくれて、ありがとう。」と言おう!と心に決めて、父が待つ正面玄関前に向かって歩みました。

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