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慕情  作者: yukko
令和
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記憶のピースを埋めるために②

香澄は智樹の腕を掴んで放さずにいました。

智樹は周囲を気にして言いました。


「周りの人に見られてるから、ここを出よう。

 その前に、放してくれるかな?」

「先輩、放しません。放したら、もう聞きたいことを聞けませんから…。」

「大丈夫だよ。ちゃんと話すから、ね。」

「いいえ、この手を私は放しません。」

「兎に角、落ち着いて! 支払いを先に済まそうね。」


そう言って智樹は支払いを済ませました。

香澄は手を放さずに言いました。


「すみません。後でお返しします。」

「いいよ。コーヒー代くらい。」

「良くありません。後で必ず!」

「分かったから、手を放そうか……。」


放さずにいると、智樹は歩き始めました。

そのまま付いて行くと、智樹が言いました。


「このまま、手を放さなかったら、僕が暗い所へ連れて行くかもしれないよ。」

「そんなこと先輩は絶対にしません。」

「絶対に…って…。」

「絶対に先輩は私が怖がることしません!」

「凄い自信だね。そんなに信頼していいのかな?」

「信頼しています。だって、あの時、先輩は私が怖がることしてゴメンって……

 抱き上げてゴメンって謝ってくれたもん……。

 私を救うためなのに…… 分かってなかった私を… 私の命を守るために……

 先輩は抱き上げながら、ごめんね……って……。

 先輩は私が怖がることも、嫌がることも絶対にしません。

 言い切れます!!」

「……はぁ~……参ったな……。」

「どこかで話の続きをします。…… そうだ! カラオケに行きましょう!」

「カラオケ?」

「大きな声を出しても他の人に聞かれませんから……。」

「ないよ。ここには……」

「ある所へ行きます!」

「……行くから、放してくれる?!」

「嫌です。先輩、行きましょう!」


香澄は智樹の腕を掴みながら、先に歩きました。

よく考えると、智樹なら、男性の力なら、香澄の手を払いのけて逃げることなど容易かったと…。

それをしなかったのは、智樹が香澄に掠り傷一つ付けたくなかったからだと数日後に真帆に指摘されて分かったのでした。


歩きながら香澄は聞きました。


「別の話を聞いていいですか?」

「何?」

「私は前の令和で、正樹さんとどんな感じでした?」

「どんな感じ、って言っても………。」

「いつ知り合ったか、とか……。」

「知り合ってなかったよ。」

「え? ほんとに?」

「うん。全く……。」

「じゃあ、私の結婚相手は正樹さんじゃないんですね。」

「結婚相手……知りたいの?」

「はい。」

「意味ないと思うけど…ね。兎に角、正樹じゃないよ。正樹の結婚相手は

 同じ大学だったから……。」

「じゃあ、お医者さん?」

「そう、お医者さん。」


「着きました。先輩、ここに入ります。」

「……分かりました。入るんだよね。」

「はい。行きましょう!」


カラオケ店に着き、案内された部屋に入りました。

部屋でサンドイッチとコーヒーを頼みました。香澄が勝手に………。

手を放さないので、智樹は「頼むから、放してよ。」と言いましたが、香澄は無視しました。

サンドイッチとコーヒーが届いてから、香澄が話し始めました。


「先輩、これから、もう一度聞きます。ちゃんと答えてください。

 飛鳥には居たんですよね。」

「居るはず無いじゃないかっ!」

「じゃあ、どうして知ってたんですか?

 舟坂のこと……。」

「…そ…れは、なんとなく…なんとなくだよ。」

「なんとなく?」

「じゃあ、他になんとなく知っているのは何ですか?」

「他………舟坂くらいかな?」

「どうして、知らないふりするんですか?」

「知らないから……だけど……。」

「先輩、舟坂を知っているのは、唐津です。

 先輩は唐津なんですか?」

「何だい?……唐津とか………僕、知らないよ。」

「どうして知らないふりするんですか?

 もうバレてます。………… お願い、話して! 事実を……。

 私の前世をなかったことにしないで!!」


香澄は泣きだしてしまいました。

涙をそっと智樹が拭きました。


「……泣かせたくないんだ。」


その言葉を振り絞るように出した智樹でした。

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