不確かな記憶
智樹と会って話を聞いた香澄は自分の前世(飛鳥時代)の前の記憶がほとんどないことを自覚しました。
福祉大学へ進学していなかったこと、就職先も福祉系ではなく銀行だったこと、驚いたのは結婚していたことでした。
誰と結婚していたかを智樹は分からないと言っていました。
⦅私、誰と結婚していたのかなぁ?⦆
それが一つの大きな疑問になっていました。
香澄の前世(飛鳥時代)の話をした真帆に会いたくなりました。
真帆も無事な姿を確認したいと言ってくれています。
真帆は香澄の自宅に来てくれました。
「えぇ―――っ!! 先輩が、田辺先輩がわざわざ行ったの?
助けるために………?」
「うん。」
「えぇ―――っ!! 信じらんないよ。だって、先輩、紗奈先輩と……。
会ってたよ。」
「紗奈先輩?」
「うん、高校の3年間付き合ってたって…言ってたよ。」
「今も?」
「今は…知らないけど、別れたのに会うかな?」
「そうね。先輩は私が死ぬことを知っていて助けに来てくれただけだよ。」
「そう? そうなのかな?」
「そうよ。……でも、紗奈先輩とお付き合いしてたなら……
嫌よね。命を助けるため…でも、別の女性の所へ行くのは……。」
「あ……… まっ、何とかなるでしょう。先輩が何とかするでしょう。
お付き合いしてるんなら、ね!」
「そうだといいんだけど……。」
「もう、田辺先輩のこと何ともないんだね。」
「う…うん。」
「それとも、助けて貰って意識するようになった?」
「そんなことないよ。」
「即答なのね。まぁ、ザ・修羅場を見なくて済みそうだ。」
「ザ・修羅場は、中大兄皇子と大海人皇子と額田王だけよ。」
「それ、誰?」
「あのね、宝塚歌劇団のお芝居でね。『あかねさす紫の花』ってのがあるのよ。」
「?……ねぇ、香澄、宝塚のファンだった?」
「えっ?」
「私、知らないよ。観に行ったって聞いたことないけど?」
「え?」
「ねぇ、その記憶、変だよね。だってさ、高校3年間も、それからも…
たぶん、その前もファンだって聞いたこと無いよ。」
「そう?……ごめん。」
「……なんか変だね。香澄の記憶……。」
「いたっ! 痛い!!」
「香澄! 大丈夫? 香澄っ!」
真帆の声はそれが最後で、香澄は気を失ってしまいました。




