前世とパラレルワールド
香澄は4日の夜、智樹と会いました。
智樹には感謝しています。
二度も助けてもらいました。
二度目は命を助けて貰ったのです。
感謝しているのですが、知りたいことを教えて貰えなかったのです。
それを今日は教えて貰いたいと思っています。
そう思うと、緊張してしまっています。
「ごめんね。待たせた?」
「いいえ、そんなには……。」
「ごめんね。………話すけれども、その前に食事は終わりたいんだ。
いいかな?」
「はい。御食事の後でいいです。」
「うん。じゃあ、食べに行こう!」
「はい。」
香澄は食事が喉を通りませんでした。
食事中、会話もほぼなく……ただ食べているだけでした。
食事が終わって、コーヒーが運ばれてきた時に智樹が口を開きました。
「どうして、地震の予知が出来たか……なんだけれど、ね。」
「はい。」
「予知じゃないんだ。」
「予知じゃない? じゃあ、何なんですか?」
「前世の記憶……なんだ。」
「前世…………。」
「信じられないことは分かってる! でも、聞いて欲しいんだ。
前世では、僕の前世では、香澄ちゃんは、あの地震で……命を…… 」
「死ぬんですか?」
「うん。命を奪われたんだ。だから、命を…… 守りたかったんだ。」
「前世と全く同じですか?」
「うん。同じだったよ。地震は同じ日に起きた、から……。」
「地震以外は? ……他は? ………他も全く同じでしたか?」
「違いはあったよ。」
「何が違います?」
「香澄ちゃん自身が違ってる、よ。」
「私? 」
「うん。進学先が違ったし、就職先も違ってる。 それに………」
「それに?」
「僕の記憶の前世では、香澄ちゃんは結婚してるよ。」
「そうなんですか……。あ…の……私は誰と結婚してたんですか?
前世の私は……。」
「それは……………分からないよ。……ごめん。」
「そうですか……。他に違いがありますか?」
「歴史が違うよ。」
「歴史?」
「うん。日本史が違ってる。」
「どこが? どこが違ってます?」
「あ……えっと……日本史の飛鳥時代が違ってて……。」
「どう違います?」
「うん。藤原不比等が死罪になって、藤原家がなくなっていて……。
大津皇子が前世では謀反の罪で死罪だったのに、こっちでは天皇になって
長屋王の変が無くて、長屋王は栄華を極めたとか……が、違うんだ。
藤原氏がなくなったから違いも多々あって……。
でも、大きな流れは同じだよ。」
⦅やっぱり、歴史が変わってたんだ。
……と、言うことは……先輩の前世は、私の微かに残っている記憶と同じ?⦆
「ビックリしたよね。……変だよね。前世とか言うの……。」
「いいえ、そう思いません。」
「本当に?」
「はい。」
「良かったぁ~。」
「先輩は、前世の記憶で私を助けてくれたんですよね。
あの……ストーカーも?」
「あれは違う! あれは無かったから、前世では……。
前世でのストーカー被害は兄さんだけだったんだ。
それも、あの女の子じゃなかったし……」
「そうなんですか?」
「うん。別の女の子で、大学生の頃だけだったんだけど、ね。
そこもちょっと違うね。」
「いつ? いつ前世の記憶が甦ったんですか?」
「僕の場合は、高校3年生の時だよ。」
「きっかけは?」
「きっかけ……… 急に頭の中に、だよ。」
「そうなんですね。」
「うん。…………良かった……信じてくれて…… 」
「信じて貰えないって思ったんですね。」
「うん。兄さんが信じてくれなくて……。今も信じて貰えてないんだ。
だから、信じてくれてありがとう!」
「正樹さんには話されたんですね。」
「うん、兄さんと…… 香澄ちゃんだけ…… 話したのは……。
僕の前世の記憶は、地震までだから、後の香澄ちゃんの人生は…
香澄ちゃん自身が作り上げていくんだ。」
「そうですね。前と違いますしね。結婚って誰としてたのかな?」
「気にしない方がいいよ。違ってるんだから……。」
「そうですね。先輩、ありがとうございました。
助けて頂いたこと、それから前世の記憶のこと、教えてくださって
ありがとうございました。」
「ううん。兎に角、良かったよ。」
前世の記憶で香澄を助けてくれたという智樹の話を聞けて、香澄は安堵しました。
それなら分かるからです。
前世の飛鳥の記憶がある香澄に分かりやすいのでした。
智樹に言いました。
「違うのはパラレルワールドだからじゃないですか?」
「パラレルワールド、かぁ……それなら……可能性大だね。」
「香澄ちゃん、そっちに興味があるんだね。
そこも、僕の記憶の中の香澄ちゃんと違うね。」
少し寂しそうに言ったのが何故なのか……香澄には分かりませんでした。




