智樹の記憶
智樹は焦りました。
また、あの巨大な揺れが襲う!と、思ったからです。
アフリカに居る兄・正樹に記憶のことを話したのは、11月になってからでした。
「信じられない! そんなことあるはず無い!!」
「でも、僕は前世の記憶があるんだ!」
「何を言ってる……前世なんてある訳ないじゃないかっ!
じゃあ、なんだ? 前世では地震が起きて、香澄さんが亡くなるって
言うのか?」
「うん。」
「お前、変な夢見たんじゃないか?」
「夢じゃないよ!! 実際に僕は二度目なんだから……。」
「智樹………。」
「ため息つきたくなる……よね……。急に弟が理解できないこと言ったん
だから……。」
「智樹……。」
「でも、信じて欲しいんだ! 香澄ちゃんを失いたくないんだ!
だから、兄さん、助けて!!」
「智樹………。僕に何をして欲しいんだ?」
「香澄ちゃんに連絡を取って、自宅に年末年始は居て欲しい!って
伝えて欲しいんだ。」
「………ふぅ…… 智樹、お前、居て欲しいって理由は?
僕は信じていないことを言う気は無いよ。
信じていないから言えないよ。」
「兄さん……… でも、香澄ちゃんは兄さんを慕ってるだろう。
兄さんの言うことなら聞いてくれるかもしれないじゃないか!?」
「かも!……だよな。」
「そうだけど……。」
「無理だよ。起きても居ないのに、地震が起きます!って言うのか?
今の科学じゃ、地震の予知は不可だ……… 知ってるよな…?」
「……うん。」
「今の科学で不可!なことなのに、言えないとは思わないのか?」
「兄さん……。」
「言えないから、僕は言わないよ。」
「兄さん!」
「智樹、その地震の予知に自信があるなら、自分の口で言え!
僕に頼るな!」
「でも……。」
「智樹! 香澄さんにちゃんと向き合え!……… 好きなんだろう?
その気持ちを告げなくてもいいから…… 向き合えよ。
逃げずに、何故、行かないで欲しいのかを……
それを僕では伝えられない、よ。
地震が起きること信じられないからね。
香澄さんを守りたいという智樹が持っている想い………
僕にはないからね。
智樹、僕…… 何言ってるのか分からなくなったけれど
僕は何もしないことだけは、はっきりしてるからね。
行かないで欲しいというのは、智樹が言わないと、な。」
「兄さん、言ってはくれないんだね。」
「無理だよ。地震が起きると思ってないから…。
智樹、頑張れ! 頑張って言ってみなよ。
……まぁ、それで地震が起きなかったら……
嫌われるだろうなぁ……。」
「………嫌われてもいいんだ……。生きていてくれさえいれば……。」
「おい、タイムリミットだ! 頑張れよ!!」
まだ少し時間がある…と、智樹は思いました。
智樹の前世の記憶では、地震が起きて香澄が命を落とすのです。
それだけは避けたいと思ってきました。
先ずは準備をしようと智樹は思い、被災時に役に立つと思う物を買い集めてリュックに入れました。
リュックは2つになりました。
少なくしても2つも……。
地震が起きる県で、震源地と思う場所から離れた所の宿泊施設を探して予約しました。
何軒かの断られましたが、何とか1軒見つかりました。
震源地がどこかを智樹は知りませんでした。
何故なら……智樹の前世の記憶はその地震が最後だったからです。




