帰路
歩いている間に津波が来たのかどうかは分かりませんでした。
ただ、何度も何度も激しく揺れました。
怖い!の一言しかありません。
「先輩、病院はもうすぐです。」
「そうか……。良かった。」
病院に着くと、直ぐに智樹は「帰るね。」と言って、リュックをそのまま香澄に渡しました。
「最低限以下だけど、使えると思う物が入ってるから…。」
「ありがとうございます。」
「香澄ちゃん、いつ帰るの?」
「4日から勤務ですので、3日には帰っていないといけないんです。」
「じゃあ、明日、一緒に帰ろう!」
「でも………。」
「一人だと、大変だよ。二人居たら何とかなるから……。
歩いて隣の県の駅に着かないと帰られないと思う。
明日の朝、病院まで迎えに来るよ。」
「えっ? 先輩はどこに?」
「大丈夫……男だしね。なんとかなるよ。 じゃあ……。」
「あ………。」
香澄は、遠ざかる智樹の後姿を見送り「ありがとうございました。」と、頭を下げました。
頭を下げた後、急いで香澄は祖母の部屋に行きました。
部屋に入ると、祖母は寝ていました。
祖母のベッドの傍に父と母が居ました。
「香澄――っ!」
「お父さん! お母さん!」
無事を確認した3人は抱き合いました。涙が頬を伝わります。
生きていると実感できた喜びは大きかったです。
病院は発電できるので、その点での心配はありませんでした。
水は……水は心配でした。
時間の経過とともに、病院へ怪我をした方が増えていきました。
入院患者を県外の病院へ移送することも検討されていました。
祖母も、他県の病院への移送が決まり、ドクターヘリで5日に移送されました。
移送されてから両親は帰宅しました。
香澄は、1月4日から勤務なので、地震の翌日には帰路に就きました。
帰宅は困難を極めました。
その時に傍に居てくれたのは智樹でした。
帰宅したのは3日でした。
帰宅後すぐに、スマホを充電すると、心配してくれた人たちからのメッセージでいっぱいでした。
一人一人に「無事でした。心配かけてごめんなさい。」と返信して横になりました。
疲れ切っていて直ぐに深い睡眠に入りました。
目覚めたのは3日の夜でした。
入浴して、軽く夕飯を摂りました。
香澄は智樹が居てくれて良かったと思っています。
怖かったのです。揺れだけでは無く、男性に対しての恐怖が全く無くなった訳ではないからです。
両親も智樹が一緒だと知って安心していました。
香澄は智樹に連絡を取り、直ぐにでも会って話をしたいと思いました。
連絡を取った時、智樹からは「香澄ちゃんの都合の良い日でいいよ。」と……。
香澄は、「明日、午後7時に……。」と、連絡すると、「了解しました。」と、返信がありました。
⦅聞こう! 知りたいことばかりだから……
聞こう! 明日………。⦆




