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慕情  作者: yukko
令和
75/166

生きている

大きな揺れがやっと治まった時に、智樹は香澄の足元を見ました。

玄関の中で話していたので、香澄が履いていたのはサボサンダルでした。

智樹は香澄にリュックから出したスノーブーツを差し出しました。


「これ、履いて!」

「先輩……どうして……持ってるんですか?」

「サイズは合うと思うから。」

「先輩、どうして、私のサイズを知ってるんですか?」

「知ってるよ!………ごめん。怖いよね。…ごめん。

 後で必ず話すから! 今はこの場所から離れよう!」


スノーブーツを履くと足元が温かくなっていくようでした。

履き終えた頃に、人の声がしました。


「助けて―――っ!」


智樹は声のする方へ走って行きました。

壊れた家の瓦礫の中から必死になって助け出そうとしている人の声でした。

智樹は、軍手をつけて、助けを求めていた人にも軍手を渡して、慎重に壊れた瓦などを除けていました。

香澄は茫然と智樹を見ていました。

その間も揺れ、香澄は恐怖で動けませんでした。

どの位経ったのか分かりませんが、智樹が一人高齢の男性を助けました。

その後直ぐに、香澄の傍に来た智樹が言いました。


「香澄ちゃん、ご両親は病院にいらっしゃるんだね。」

「はい。」

「病院だったら、大丈夫!だからね。

 病院まで歩いて行こう、いいね。」

「はい。」


智樹に言われるままに、香澄は智樹と病院へ向かいました。

歩いている途中も揺れました。


「津波が来たら怖いから、高い方に先ず行こう!」

「先輩。」

「うん?」

「どうして、知ってたんですか?」

「……それは……今は話せないよ。」

「じゃあ、いつ、話してくれますか?」

「………香澄ちゃんが家に帰ったらね。」

「本当ですか?」

「うん。逃げないよ。安心して!……。」

「……分かりました。」

「今は高台に先ず向かって、それから、病院へ向かおう!」

「はい。」

「病院の方向で高い所を目指そう!」

「はい。」


病院は海から離れた所にあります。

香澄が病院への道を案内しながら歩きました。

何度も揺れました。


⦅生きているんだ。私………。⦆


そう、生きているのです。

香澄は「奇跡のような出来事だ。」と、思いました。

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