児童福祉司
香澄は児童養護施設での実務経験1年になって、念願の児童福祉司になれました。
児童養護施設でこれからも働くことは出来ますが、希望していた「児童相談所での勤務をしたい!」と、いう気持ちが大きかったのです。
その旨を施設長に伝えると、「織り込み済みだ。」と、言われました。
香澄が念願の児童相談所に勤務できたのは、2023年です。
正樹はアフリカです。
幼馴染夫婦は2児の親になって、共働きで頑張っています。
真帆も二人で働いていますが、まだ子宝には恵まれていません。
真帆はとても欲しがっています。
智樹は……分かりません。
元々連絡し合うような仲ではありませんでしたから、当然です。
子ども達との別れが辛かった香澄ですが、特に心が残った子が居ます。
13歳の女の子、ひかりちゃん。
彼女は実の父親からの性的虐待を受けていました。
母親は夫のDVに悩んでいました。
働く場所も家もない状態だったことが実の娘への性的虐待に繋がると母親は思いも寄らなかったのです。
ひかりちゃんと弟に言いました。
「お母さんは一人で家を出るけれども、住む所が見つかったら必ず迎えに来るから! 待っててね!!」と、言い、一人で家を出たのです。
その日から、父親の娘への性的虐待が始まったのです。
それまでは、子どもに手を出さなかったので、母親は「子どもには暴力を振るわない。」と、思っていたそうです。
半年後、母親は娘と息子を迎えに行きました。
昼間なら夫は居ないはず…と、子ども達が帰宅する時間に家に行ったそうです。
その時に目にしてしまったのです。
窓のカーテンが風で揺れて、部屋の中が見えた時でした。
何故か、家に居る夫を……。
その夫は全裸でした。
夫が組み敷いているのは娘・ひかりちゃんだったのです。
母親はパニックになったそうです。
何が起こっているのか分からなくて、佇んでいたそうです。
その時に息子が帰って来たのです。
息子が「あ……!」と、声を出した途端に、母親は口に指をあてて「静かに!」と声を出させないようにしました。
「その後、どうしたら良いのか分からなくて……。」と、母親は泣いていました。
泣きながら話してくれたのは、息子に玄関で大声で「ただいま!」と、言って貰ったそうです。
すると、父親は娘から離れるのではないかと思ったそうです。
息子には「ただいま!」の後に、「おばあちゃんが来て欲しいと言ってたよ。」と言うように伝えて、その通りに玄関で「おばあちゃんが……。」と、大きな声で言ったそうです。
近所に住んでいる夫の母親が呼んでいると伝えさせたのです。
夫が家を出る姿を確認してから、母親は娘と息子を連れて、何も持たずに家を出て、そのまま児童相談所に向かったそうです。
母親は泣きながら言いました。
「私が家を一人で出たから、娘が酷い目に遭った。私が悪いのです。」と………。
「子どもを連れて今の家に住んで、もし夫に居場所がばれたら、また娘がどんな目に遭うか、怖いです。どうか、娘を助けてください。」とも………。
その結果、ひかりちゃん姉弟は児童養護施設に入所することになりました。
ひかりちゃんは男性職員が怖いので、常に傍に居るのは担当している香澄だったのです。
児童養護施設を辞めるということは、ひかりちゃんに対して無責任ではないかと思い悩んだのですが、施設長が「自分が目指している道を歩みなさい。後は大丈夫!」と、言って貰えたのです。
退職を決意したのは、施設長の言葉でした。
児童相談所では、虐待を受けた児童の保護をします。
ひかりちゃんのような子どもを虐待が無い場所で育ってもらえるような環境を作るためにも、児童相談所が機能しないといけないと香澄は思いました。
新しい道、児童福祉司として香澄は努力しようと思いました。
実の父親から性的虐待を受けた話は実話を変えて書きました。
実話では母親が迎えに行った時には父親の子を妊娠していました。
堕胎が出来なかったので、産みましたが、その子どもは直ぐに乳児院へ預けられました。
実話でも、母親は自分を責めています。父親の所へ置いて出て行ったことを……。




