署名活動
真帆が来てくれました。
家を出られないようになってしまって情けない……と、電話で泣いてしまった香澄を心配してきてくれたのです。
「香澄…… いつかは出られるようになるよ!
このままじゃないから……ねっ!」
「行かれないのよ。行きたいと思っているのに……
児童養護施設、職員が大変なのに……一人減ると……
子ども達にも……会いたいの………。」
泣きじゃくる香澄を前にして、ただ抱きしめるしかないと真帆は思いました。
どんな男なのか分からないけれども、重い刑に処して欲しいと願いました。
それでなければ、直ぐに出て来られたら、万が一…刑務所に入らなかったら……被害者の香澄はどんなに怖いだろう!と真帆は思いました。
真帆は署名活動をしようと決意しました。
男が直ぐに出て来られないような刑に処して欲しいと思ったのです。
「香澄、あのね……サッカー部を中心にして署名活動したいと思うの。
あいつが直ぐに出られないようにして欲しいっていう署名活動!
香澄、勝手にするけど、許してね。」
「許して!って……嫌がる訳ないじゃん。
真帆………ありがと………ほんとに……ありがと………。」
香澄は涙が止まらないようでした。
真帆も泣いています。
ストーカーの行為は、されている側から見れば恐怖しかないことで、その恐怖が終わりは分からないのです。
分からない恐怖が恐怖の上に重なります。
重罪に処して貰わないと被害者の心は救われることが難しいのだと香澄は思いました。
署名活動をしようとしていた真帆に、サッカー部のマネージャーの先輩からLINEで署名活動をしていることと併せて署名のお願いが届きました。
ネットでの署名活動を行っているということでした。
真帆は嬉しくて聞いたのです。
「どなたの発案ですか?」
「智樹よ。……あ、田辺君。」
「えぇ―――っ!」
「うん。田辺君、頑張ってるよ。……あ、仕事も…ね…。」
「仕事も…って、先輩、仕事で関係あるんですか?」
「うん。取引先の会社なのよ。」
「そうなんだ。……あの……今もお付き合いされて?」
「前にお付き合い……ね。」
「あ……すみません。」
「いいわよ。高校3年間、付き合ってただけだから……。
じゃあ、署名の件、よろしく!」
「了解しました!」
「ふぅ~~ん。田辺先輩、高校時代は……なのか…。
でっ、今は会社で取引先……… ふぅ~~ん。
焼け木杭に火が付く……可能性もある……のかな?
香澄をストーカー野郎から守ってくれたから……
もしかしたら……って、思ったけど…違うのかな?
要注意人物、田辺智樹! だな。 うん。
も一人の田辺も、だな。うん。」
…と、真帆は自分の独り言に頷いていました。
独り言で頷いた後、真帆は思いました。
⦅馬鹿! 真帆のバカ!!
香澄は恋愛どころじゃないって分かってるのに……
なんで……!! 恋愛脳なのよ!
香澄…… ごめんね。
香澄の傍に一生居てくれるような男性……。
早く、香澄の傍に…居て欲しいから……。
お父さん、お母さんよりも、これから長く一緒に居てくれる男性。
そんな男性が……居て欲しいの。
香澄…… ごめんね。⦆




