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慕情  作者: yukko
令和
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ストーカー

家を出る時は必ず父が一緒の時と家族で決めました。

施設の子ども達の笑顔が目に浮かびます。

泣いている顔も浮かびます。

行きたいと思うのですが、身体の拒否反応が出てきました。

行こうとすると、玄関で目眩がするのです。

目眩がして倒れそうになるのです。


「このままニートになっちゃうのかな?」

「ニート……何を言うのよ。今は無理なだけよ。」

「心療内科に通い始めたけど、駅が怖くて……。

 お父さんに休んで貰ったりして車で通院なんて情けないわ……。」

「それだけ怖い想いをしたのよ! 無理でも仕方ないじゃない!

 香澄、自分を責めたりしないで!!

 悪いのは、あの男なんだから!!」


そう言って幼馴染は抱きしめてくれました。泣きながら……。


「辛いのは、苦しいのは私だけじゃない!

 この経験を活かさないといけない!」


……と、意気込みだけは立派ですが、行動が伴わないのです。

それが香澄を苦しめる、もう一つの原因です。



警察から再度報告を受けました。

聞いたのは、父と母でした。

最初から香澄は聞かずに部屋にいることにしたのです。

部屋でベッドに横たわりながら、警察の訪問というだけで、身体が強張りました。

緊張していることは香澄自身が分かりました。

布団を頭から被り、身体を丸めてジッとしていました。

ドアのノックの音がして、母の声が聞こえました。


「香澄、警察の方、お帰りになったわよ。

 夕飯まで部屋にいるなら、夕飯の時に声を掛けるわね。」

「うん。ありがとう。」


この時の両親と警察の間で話された内容については、香澄が聞かなかったので、両親は一切話さなかったのです。

この内容は、前回の内容と併せて、田辺智樹に父から電話で伝えられていました。

そのことも香澄は知らされていませんでした。


∻∻―――∻―――∻―――∻―――∻―――∻―――∻―――∻―――∻―――∻∻



田辺智樹は、このことをアフリカに居る兄・田辺正樹に伝えたのでした。

香澄の状態も詳しく、知っている限り伝えたのです。


「香澄ちゃんを襲った奴は、香澄ちゃんの知り合いじゃなかった。

 一方的に香澄ちゃんに想いを寄せている奴だった。

 香澄ちゃんを盗み撮りし、それを部屋の壁に貼り付けていた。

 香澄ちゃんへの手紙を書いた後で写真に撮り、PCに残していた。

 それから……

 香澄ちゃんに優しくしてもらって、それだけで恋人になれたと……

 思い込んでいたそうだ。

 たまたまだと思うけど、コンビニの前の側溝に落とした車のキーを

 香澄ちゃんが一緒になって探した……それだけが唯一の接点。

 なのに、あの野郎!

 俺の恋人なのに浮気してる!って言ったんだそうだ。」

「そうか……。 典型的なストーカーだな。」

「うん。」

「智樹、良かった! お前が居て!」

「たまたま、だけど……結果的には良かっただけど……。」

「だけど、なんなんだ?」

「もし、あいつが掴んでいる香澄ちゃんの手首を…… 

 振り払えなかったら……と、思うと……

 もしかしたら最悪の事態になっていたかもしれないと……

 ……そう思ったら………。怖いんだ…。」

「智樹、 お前が居たから助かったんだ。

 もし、たら、れば、は意味が無いよ。智樹は助けたんだよ。

 ……なぁ、智樹、そいつ、何故、僕たちの苗字を知ったんだ?」

「香澄ちゃんの周囲を見てたら、兄さんか僕が香澄ちゃんと図書館に

 居たそうなんだ。」

「それだけで?」

「うん。……それから、香澄ちゃんの周囲をいつも見ていて、

 同窓会で僕が居て……名前、聞こえたそうなんだ。

 それで、「田辺」が浮気相手だと……思い込んだ。

 思い込みなんだ。完全に……全て、あいつの思い込み……。」

「智樹、香澄ちゃん。心療内科に通ってるのかな?」

「うん。通い始めたって聞いたよ。」

「そっか……。心療内科に通うようになっても直ぐに良くならないから…

 周りの人間が支えて、少しでも楽しい時間を過ごして欲しいと思う。

 兎に角、心療内科に通えているのはいいことだ。」

「兄さん、親も……それから、香澄ちゃんも……寂しいと思ってるよ。

 3年もアフリカに居るの?」

「うん。3年間。」

「そっか…… 香澄ちゃんにも連絡してあげてよ。」

「うん。連絡するよ。」

「兄さん、大変だと思うけど、無事に日本に帰って来てよ。」

「うん。帰るよ。無事に……ね!

 おい、切るぞ! 忙しくなりそうだ!!」


そう言って正樹は通信を終えました。

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