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慕情  作者: yukko
令和
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恐怖

手紙は誰からのものか分からないままに日が過ぎていきました。

警察から連絡があり、石井葵の両親が謝罪に来ることになりました。

謝罪は駅の階段で押したことについてです。

深く頭を下げて、上げることが無いまま話をしたのは石井葵の父親でした。


「娘は思い込みが激しくなっていました。

 気づいていたのに、何もせずに居ました。

 田辺先生を追いかけるのが酷くなってから、妻が娘を見守って……

 見守るというよりは、跡を付けていたというのが正しいです。

 先生に近づかないように!と………。

 その日、何故かお嬢さんの後を付けたのです。

 妻は驚いて、私に連絡して、そのまま娘の跡を付けました。

 そしたら、駅の階段で娘がお嬢さんの背中を押したんです。

 驚いて妻は階段の下で倒れているお嬢さんの身体を見て、

 救急に電話しました。

 電話して、直ぐに娘の跡を追いました。

 電話している間も娘を目で追いかけていたんですが……

 電話が終わる頃には娘の姿はもうなかったんです。

 追いかけても見つからずに、妻は私にあったことを伝えてくれたんですが…

 そのままにしてしまったこと本当に申し訳ございません。

 娘を探すことに直後は必死でして……

 その後、入院させて……

 本当に申し訳ございません。

 誰に危害を加えたのかを探すこともせずに……

 お詫びに伺いもせずに暮らしていました。

 本当に申し訳ございませんでした。」


香澄は「謝らなくてもいいです。」と最初に言いました。

そして、「私は元気ですから……。」と言いました。

石井葵を罪に問うべきなのかもしれませんが、精神疾患であり、現実には何らかの刑に処せられることがありません。

それに、香澄は石井葵の将来のためにも、先ずは治療に専念し、いつか社会復帰して欲しいと願っています。

そのことも伝えると、石井葵の両親の嗚咽は大きくなりました。



この間も手紙はポストに入っています。

もう6通目です。

「田辺先輩」にLINEでメッセージを送りました。


「石井葵さんは、手紙を出せる状況ではありませんでした。

 駅の階段の件は、石井葵さんでした。

 そのことでご両親から謝罪を受けました。

 先輩、誰か思い当たる人、いませんか?

 先輩の周辺で、いませんか?

 考えてみて貰えると助かります。」


暫くして返信メッセージが届きました。


「ごめん。直ぐには思い当たる人、いないんだ。

 本当にごめん。小さなことでも思い起こしてみるよ。

 香澄ちゃん、ごめん。」


≙―――≙―――≙―――≙―――≙―――≙―――≙―――≙―――≙―――≙


2日後のことでした。

職場から駅に向かっていました。

職場の人と一緒なので一人ではありません。

香澄を見る眼があることに気が付いていませんでした。

駅に着くと、母の姿が見当たりません。


「あれっ? お母さん居ないね。」

「遅れてるだけだと思います。もうすぐ来てくれるはずです。」

「お母さんが来てくれるまで一緒に居ようか?」

「いいえ、いいですよ。お子さんが保育園で待ってるんですよね。

 ママが来ること待ってるお子さんに悪いです。」

「そう? ごめんね。……気をつけてね。」

「はい。」

「何かあったら、110番よ。」

「はい。ありがとうございます。」

「本当にごめんね。じゃあ、また明日ね。」

「はい。明日。」


そう言い手を振って、職場の人はホームに向かって行きました。

その直後でした。

香澄は手首を強く掴まれました。

香澄の手首を掴み引っ張る男性の姿が視界に入りました。

手首を強く掴み引っ張る男性を香澄は見たことがありませんでした。

恐怖でパニックになりました。

怖くて声が出ません。


⦅誰か! 誰か! 助けて―――っ。

 雄鹿! 雄鹿!! お願い…… たすけて……。⦆


引っ張られるままに身体がその男性の胸に引き寄せられて抱きしめられてしまいそうな時。

その瞬間………。手首を握りしめている男性の手を払う手が見えました。

「かすみぃ―――っ。」と叫ぶ母の声が聞こえました。

母が助けてくれたと思いました。


香澄の身体をその男性から引き離して、間に入り香澄を守るかのように立っていたのは……


「おじか?」

「香澄!」

「警察へ通報を!」


走り去ろうとする男性を取り押さえようとする「雄鹿」。

取り押さえることを何人かの男性が助けてくれました。

誰かが駅員に伝えてくれていたようです。

駅員が来て、取り押さえられた男性を、通行中に取り押さえてくれた人たちから受け取るように確保してくれました。


心臓が激しく鼓動を打っています。

怖かった………。

ただただ怖かった………。


助けてくれた人たちに母は頭を深く下げてお礼を言っています。

その時……「雄鹿」の声がしました。


「香澄ちゃん、大丈夫?」


それは、「田辺先輩」でした。


「あ…… 先輩。」

「見せて!」

「あ………。」

「手首、怪我してなくて良かったよ……。」

「ありがとうございました。田辺さん。」

「いいえ。」


警察官が来て、男性は警察に確保されました。

現行犯なので、言い逃れは出来ません。

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