表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
慕情  作者: yukko
飛鳥
6/166

あかねさす紫

天智天皇7年 668年。

天智天皇が蒲生野に遊猟に出かけたときに、額田王が皇太子・大海人皇子に「茜指す紫野行き標野行き 野守は見ずや 君が袖振る」と歌い、「紫の匂へる妹を憎くあらば 人妻ゆゑに 我恋ひめやも」と大海人皇子が返歌をした……あの………あの蒲生野での遊猟が今日なのです。

もう朝から香澄 いいえ 今は鸕野讚良皇女です。

鸕野讚良皇女は心が浮き立って仕方がありません。

朝から「♪厠ぁ~ か・わ・やぁ~♪」でスキップだけではなく……

歌ってしまったのです。しかも……繰り返し……。

「♪あかねさすぅ~ むらさきのゆき しめのゆき♪」と……

侍女の視線を感じて「ヤバっ!」と思った時は、遅かったのです。


「皇女様、如何なさいましたか?」

「な……なんでも…ないわ。」

「左様でございますか?」

「ええ……大丈夫よ。問題ないわ。」


⦅ヤバい!! 歌ちゃ駄目なのに……やっちゃったわよ。

 うぅ~~~ん。 他の歌にしようかなぁ~。⦆


蒲生野に到着して、今か今かと待っている時に………

やっと、その時が訪れたのです。

宴が開かれて、歌を歌います。

額田王の番になりました。


⦅待ってましたぁ~! いよぉ~ 額田王!!⦆


美しい声が響きます。


「茜指す紫野行き標野行き 野守は見ずや 君が袖振る」


そして、大海人皇子の返歌が続きました。


「紫の匂へる妹を憎くあらば 人妻ゆゑに 我恋ひめやも」


⦅いよぉ~っ! ご両人!!

 宝塚歌劇団のあの舞台の……あの場面が……今、目の前にぃ~!⦆


⦅あれっ? なんか変?!⦆


そうなのです。視線を絡ませるとか全くなく………。

父・天智天皇も笑顔です。


⦅あれっ?⦆


大海人皇子は酒をガブっと飲み干して、槍を手にしました。


⦅来た! 来たよぉ~~っ!⦆


天智天皇の前に槍を突き刺したのです。


⦅来た―――っ! ザ・修羅場! 待ってたよぉ~!⦆


槍を突き刺しても、天智天皇は舞台のような言葉を発しません。


⦅あれっ? 言わないの? 怒鳴らないの?

 大海人~!!って怒鳴らないの?⦆


三人とも平静でした。

それが、何故なのか全く分からずに居ました。

その時に……目が合ったのです。

一人の舎人(とねり)と……


「嘘っ!」

「どうなさいましたか? 皇女様」


それに答えずに舎人に近づきました。

近づけば近づくほどに似ていることを知るのです。

初恋の人に……とても似ていると……心臓が煩く鼓動を打ち続け、それが大きくなっていくのです。


「貴方は?」

「鸕野讚良皇女様!! 」

「貴方は? 誰?」


膝をついて答えました。


「私は天智天皇にお仕えしております。

 舎人の雄鹿と申します。」

「雄鹿……雄鹿……というのね。」

「はい。何でございましょう? 鸕野讚良皇女様。」

「あ………あの…… なんでも無いのよ。

 お仕事中にごめんなさい。」

「そのような……勿体ないことでございます。」


幾度も幾度もその舎人の名前を心の中で繰り返しました。

「雄鹿……雄鹿……。」と…………。

その間も頭を深く下げたまま上げてくれない雄鹿。

身分が違うから……と……今のこの身を呪いました。

大海人皇子の妃であるこの身を………。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ