押された? 当たった?
意識がしっかりあったので、救急車の中で香澄は「押されたように思う。」と、救急隊員に伝えました。
救急搬送された病院へ両親が来てくれました。
幸いなことに階段の下の方からの転落だったので、怪我は手足の擦り傷と捻挫が主でした。
念のため、病院で一泊することになりました。
「香澄、押されたように思うって……。
誰に押されたか分からないの?」
「うん。」
「一応、警察署から警官が来てたな。
話した?」
「うん。…… でもね、押されたように思うだけで、当たっただけかも
しんないし……。」
「そうか……。」
「兎に角、酷くなくて良かったわ。
もう二度と……あんなことにならないでね。」
「うん。気を付ける。」
「そうして欲しい。」
「はい。……心配ばかりかけて、ごめんなさい。
お父さん、お母さん。」
「お前が元気で居てくれるだけで、お父さんは幸せだから……。」
「お母さんもよ。」
「うん。」
押されたのか、当たったのか分からないままでした。
目撃者が居ません。
誰も分からないのです。
病院で一泊した後、香澄は勤務先に行きました。
勤務先の人達は大変心配してくれていました。
子ども達も心配してくれていたようです。
香澄の姿を見つけて、走って来て抱き付いた子も何人も居ました。
「ごめんね~。心配かけて、ほら……見て。大怪我じゃないでしょう。
だから、大丈夫だからね。……ねっ!」
頷く子、離れない子、遠巻きに見つめている子………。
両親とは別に、こうして心配してくれる子が居る事実は香澄にとって嬉しいことでした。
ただ、階段から落ちて……しばらくして、また変なことが起きました。




