面影
ゴールデンウィークに入った頃、久し振りに図書館へ行きました。
高い所にある本を取ろうとしていると、スッと他の人の手が、その本に伸び本を取ったのです。
「あぁ~、取られちゃった。」と思った瞬間に後ろから声がしました。
「この本ですよね。」
⦅雄鹿!!⦆
振り返ると先輩でした。
「はい。」
「あ、ありがとうございます。」
「他に読みたい本があったら、取りますよ。」
⦅うん? なんだか、先輩の言葉遣いじゃない……な。⦆
「あ、もう無いです。ありがとうございます。」
「良かったですね。」
「はい?」
「あの子、元気になって…随分…!」
「あ……先生?!」
「はい。」
⦅えっ? えっ? 先輩で……え?⦆
「あ、ありがとうございました。あの時は。」
「仕事なので当たり前ですよ。」
「あ、そうですね。」
「あちらで読まれてたんですか?」
「はい。」
「ご一緒しても宜しいですか?」
「…はい。」
⦅なんか変! 先輩の言葉遣い、変!⦆
「あ…の……。」
「はい。……小さな声で伺いますよ。」
「あ……小さな声ですね。」
「はい。」
「先ずは座りましょうか。」
「はい。」
「あの……先輩ですよね。」
「先輩? あぁ、弟のことですか?」
「弟さん!」
「シ―――っ。小さな声でお願いします。」
「はい。」
立ち上がって香澄は周囲に頭を下げました。
「筆談にしましょう。」と、入力されたタブレットの画面を見せられました。
香澄は「はい。」と、入力したスマホの画面を見せました。
双子の弟が居ること、双子の弟は高校でサッカー部に入っていたこと、今は商社に勤めていること、などを教えてくれました。
香澄のことは双子の弟から聞いていて、サッカー部の写真も何度も見せて貰っていたから香澄の顔を覚えていたことなども教えて貰いました。
「仕事中だった先日の診察室で弟ではないことを言わなくてすみません。
勘違いさせたままで申し訳ありませんでした。
仕事中だということご理解ください。」
そう言ってくれました。
一頻りタブレットとスマホを使っての筆談をして、最後に名前を教えて貰いました。
先輩の名前は「田辺智樹」です。
先生の名前は……「田辺正樹」でした。
この世に「雄鹿」に似た男性が二人も居たのです。面影を思い起こさせる男性が……。




