児童福祉司
児童相談所で働くために、香澄は児童福祉司になるつもりです。
児童福祉司になるには、公務員試験を受ける前に福祉大学を卒業し、公務員試験の前でも後でもどちらかで、福祉施設での実務経験が1年以上必要です。
大学卒業して直ぐに受けた公務員試験は無事に合格しました。
卒業して直ぐに福祉施設に就職しました。
児童養護施設です。
働き始めて直ぐに香澄は、虐待によって入った子が多いとは学んでいましたが、思っていたよりも多くて驚いたのです。
地域のボランティアグループの方々が、夏休み中に1日だけ、半日里親をしてくださっていたことも驚きでした。
慌ただしく過ぎていく日々。
そんな中、子どもが交通事故に遭いました。
連絡があったので、大急ぎで病院へ香澄が行くことになりました。
病院に到着して、受付で、「緊急搬送された小学生の施設の者です。」と告げると、救急の診察室へ通されました。
「田辺先生、事故の小学生の施設の方がお見えになりました。」
「あぁ……、ありがとう。」
⦅この声……先輩?⦆
振り返った医師は、先輩……。
医師の驚く顔に香澄が驚きました。
「先輩?……お医者さんになってたんですか?」
「あ……あぁ、………ところで、施設の職員さん?」
「あ……はい。」
「説明しますね。足を骨折していまして……
入院は2週間程度です。
入院中にリハビリを行います。」
「はい。」
「入院中、当院内の院内学級に入られますか?」
「はい。お願いいたします。」
「これからの連絡は、貴女にしても宜しいですか?」
⦅……? 貴女?⦆
「はい。私が担当している子なので、私にお願いします。」
「承知しました。これが入院計画書です。」
渡された書類には先輩の名前はなかった。
「あの……主治医は、どなたなんですか?」
「主治医の名前は記載されていますが……。」
「先輩じゃないんですか?」
「あ……違います。僕は主治医の代わりです。
すみません。主治医は緊急で病棟に行っています。」
「……そうなんですね。」
「では、説明を終えましたので。」
「ありがとうございました。」
「あ……君、この方をお子さんの病室までご案内して。」
「はい。」
「じゃあ、失礼します。」
「あ…… ありがとうございました。」
医師が頭を軽く下げて行ってしまいました。
香澄は先輩が先輩らしくないことに驚きました。
⦅香澄ちゃん、だったのに……な。
あ……職場だもんね。香澄ちゃんって呼べないよね。⦆
少し、寂しいと思いました。
それと、やはりそっくりなのです。雄鹿に……。




