初恋の人
香澄はまさか図書館で先輩に会うとは思っていませんでした。
先輩に誘われるがままに歩きました。
着いた先はスターバックスでした。
「ここで、いいかな?」
「あ……、はい。」
「香澄ちゃん……何にする?」
「あ…… はい。……えっと、抹茶ティーラテ……にします。」
「ケーキは? 要らないの?」
「あ、要りません。」
「抹茶ティーラテのサイズは?」
「あ…トールで。」
「じゃあ、抹茶ティーラテのトールとスタバラテのトール、1つずつ。」
先輩が無言で香澄の分も支払ってくれました。
「先輩、私、私の分は自分で払います。」
「久し振りだから、僕に払わせてよ。ねっ!」
笑顔でそう言われて、「すみません。……ありがとうございます。」と、言うのが精一杯でした。
向かい合って座っていると、ドキドキしました。
⦅雄鹿……そっくり…… 顔も、姿も…声も……
そっくり………
別人なのに…… こんなに似てるなんて……。⦆
胸の高まりを抑えようと意識すればするほど高まっていくような気がしました。
頬が赤く染まっていくのを感じました。
「香澄ちゃん、今も赤面症なのかな?!」
「えっ? 赤いですか?」
「うん。僕が高校3年生の時…初めて会った時から、今も…だね。」
「………恥ずかしい……。」
「サッカー部に入部してくれて最初の挨拶の時、すっごく真っ赤になってた。
だから、覚えてるんだ。」
「……忘れてください。」
「もう一人の子も…… 真っ赤になってたなぁ~。 二人とも可愛かったよ。」
「もう、ほんとに、忘れてください。」
「真っ赤だね。」
「もう、先輩!!」
「分かった。分かったよ。
ところで、今はどこにいるの?」
「あ…… 福祉大学です。」
「そうなんだ。……サッカー部でマネージャーやってるの?」
「いいえ。もう何もしてません。」
「そうなんだ。」
「先輩は? どうして図書館に…?」
「あぁ…、この近くの病院へ行くんだ。
それで、その前にちょっと時間調整を兼ねて入ったんだ。」
「そうなんですか?」
「ところで、香澄ちゃん……。将来は何になるの?」
「児童相談所で働きたいんです。」
「へぇ~っ。」
「変ですか?」
「いいや、いいねっ! ちゃんと夢があるのは……。」
「…あ、ありがとうございます。」
「いいえ、お礼を言われるようなこと言ってないよ。
ほんと真面目だね。」
「そうですか?」
「うん、そうだよ。真面目!」
「そ……そんなこと…ないと、思います…けど…。」
「ある!と僕は思います。
さてと……香澄ちゃん、ありがとう。」
「何がですか?」
「時間、楽しく過ごせて、潰せたよ。ちょうどいい時間になった。」
「そうなんですか。」
「うん。ありがとう。じゃあ……元気でね。」
「はい。あ、ご馳走様でした!」
「どういたしまして!………あ、サッカー部の連中に会ったら、」
よろしく伝えてね。」
「はい。」
「じゃあ……。」
「お疲れさまでした。」
「クラブ活動じゃないよ。バイバイ!」
「あ……さようなら。」
胸の高まりは治まらないままに、先輩を見送りました。
先輩は今は何をしているのか聞くことも出来ませんでした。
雄鹿にそっくりだと、改めて思った香澄でした。




