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慕情  作者: yukko
平成
38/166

病院

気が付いたのは病院のベッドの上でした。

懐かしい父と母が傍に居ました。

目を覚ました香澄と母の目が合いました。


「お父さん、香澄が……。」

「えっ? 香澄――っ!」


父がナースコールを押しました。


「どうされました?」

「目覚めました! 娘が……目覚めました!!」

「直ぐに行きます。」


父と母は涙でいっぱいにしながら………。


「香澄………。香澄………。」


…と、名前を呼んで泣き続けていました。

香澄は訳が分かりませんでした。


⦅確か……死んだ?はず……… えっ? 違うの?

 私、香澄…… 目の前で泣いてる…… お父さん! お母さん!!

 戻って来れたんだ―――っ!!


 いや……違うのかな? 臨死体験っていうやつかな?

 きっと、そうだよね~。⦆


医師は「高次脳機能障害が残る可能性があります。」と告げました。

その病名を香澄も両親も初めて聞きました。

香澄は交通事故に遭い、一命をとりとめましたが、脳に障害が残った可能性があるとの診断でした。

確かに記憶が可笑しくなっていました。

覚えていないことがある反面、臨死体験かと思う記憶は鮮明なのです。

それが香澄にはとても不思議でした。


そして、看護師が点滴を打つ際に言った言葉を聞いて驚いたのです。


「可愛いミサンガね。

 ここに運ばれてきた時から付けていて……なんとなく外せなかったのよ。」

「ミサンガ?」


看護師は香澄の右腕を少し上げて、ミサンガが見えるようにしてくれたのです。

そのミサンガに見覚えがありました。


「あ………。」

「思い出した?! 良かったわぁ~。

 ご両親はご存じなかったから……。

 誰かさんに貰った物なのね。」

「は…い…。」

「本当に良かったわ。若いから早く治るわよ。」


そう言って部屋を出て行きました。


両親が手首のミサンガを知らなくて当たり前です。

これは……あの飛鳥時代の吉備内親王がくれた物だったからです。


⦅あれは……臨死体験じゃ……なかったんだ………。⦆


あれは……あの飛鳥でのことは……香澄の体験だったのです。

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