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慕情  作者: yukko
飛鳥
35/166

長屋王

長屋王とその妃・吉備内親王も見舞いに来ました。


「鸕野讚良皇女様には」

「良い!」

「は?」

「堅苦しい挨拶など止めましょう。 

 長屋王、吉備内親王、良く来てくれました。」

「早く参りたかったのですが、先ずは岡宮太上天皇様が順にとお決めになった

 通りに参りました。」

「そうですか………。長屋。」

「はい。」

「文武天皇を頼みます。」

「はっ。」

「それから…………吉備内親王を頼みます。」

「はい。大切に致します。」

「吉備内親王。」

「はい。」

「長屋と手を携えて……ね。」

「はい。」

「それにしても、長屋、そなたは年を重ねるにつれ高市皇子に似てきましたね。」

「よく言われます。」

「姿かたちだけではないとも言われているのでしょう。」

「はい。」

「高市皇子の母の出自を考慮してしまうと聞きましたが、考慮しないように!」

「それは、出来かねます。」

「何故ですか?」

「祖母の出自は変えられません。」

「そうですね。ですが……変えねばならないのですよ。」

「どうしてですか?」

「いつまでも今のまま皇族の中での婚姻を繰り返していては良くないからです。」

「何が良くないのですか?」

「新しい考えを受け入れられなくなるとは思いませんか?」

「新しい考えですか?」

「そうです。伝統を守るのは大切ですが、守りつつ新しいものを受け入れる。

 それには、外の、豪族の者との婚姻は大切です。」

「それは、受け入れています。妃として……。」

「ええ、知っていますよ。でもね、もし、皇位継承権を持つ者が少なくなって

 皇位を継ぐ者が居なくなったら? どうしますか?」

「外戚を持つために力を持った者が娘を皇后にしたがるでしょう。

 その結果が、藤原不比等でした。それを一番ご存じなはずでございます。」

「ええ、ええ、知っていますよ。

 知ってても、皇后になるのは皇族ということを外す必要があるのです。」

「分かりません。」

「そうですよね………。でも、そなたは、どうか高市皇子の母親の出自を

 気にしないで欲しいのです。

 どうしても、そなたに皇位の継承をしてもらわねばならない時が来るかも

 しれないからです。

 文武が子に恵まれなかったら? 氷高皇女に何かあったら?

 その次に皇位継承権があるのは、そなたです。

 その時は、どうか高市皇子の母親の出自を考慮せずに……ね。

 お願いします。」

「御意でございまする。」

「ありがとう。」


『長屋、本当の理由はね。弱い子が産まれやすいからですよ。

 そう伝えられたら良いのに、出来ないわ。

 それを伝えたら、長屋王と吉備内親王の婚姻は………

 許されないものだと言うことだから………。言えないわ。』


「そなたらの子が健やかに育ってくれることを望んでいます。」

「ありがとうございます。」

「ごめんなさいね。疲れました。休みますね。」

「あ…、はい。気が付かず申し訳ございません。」

「いいえ、私が引き留めて悪かったのです。」

「そんなことは」

「ありがとう。会えて嬉しかった。来てくれてありがとう。」

「鸕野讚良皇女様……。御身体が良くなられて宮殿にお越し頂けますよう…

 次は宮殿でお目にかかりとうございます。」

「ありがとう。長屋。ごめんね。床に就きます。」

「はい。またお目にかかりとうございます。」


別れ際、吉備内親王が舟坂に渡した物がありました。


「舟坂、これを鸕野讚良皇女様に渡してください。」

「これは?」

「私が作ったの。随分前だけれども……。

 手首にね。こうして付けるの。

 子どもの手慰めだけれども……喜んで頂けるような気がしたの。」

「それは、お喜びになられます。」

「いいの? お渡ししても……。」

「勿論でございます。内親王様よりお渡しなさいませ。」

「ううん、お疲れのご様子ですもの……。 そなたから渡してね。

 お願い!」

「承りましてございまする。」



鸕野讚良皇女は、雄鹿と舟坂が二人で支えてくれて、床に就きました。

その時に、「吉備内親王が御自ら御作りになられた物でございまする。」と舟坂から受け取ったミサンガのような物を、優しく、そして愛おし気に鸕野讚良皇女は手首に着けたのです。

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