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慕情  作者: yukko
飛鳥
31/166

雄鹿は白粉の製造方法を調べました。


「まさか……。そんな……。水銀が入っている。」


水銀が入った白粉を長期間塗っていたのです。

それも、顔色が悪くなってからは、その水銀入りの白粉を重ね塗っていたのです。


「これを使わせたら駄目だ!」


呟くように言った雄鹿は、鸕野讚良皇女が休む部屋に入りました。


酷い顔色で横たわっている鸕野讚良皇女の姿を見て、雄鹿は小さな声で言いました。


「ごめん。また、守れなかった……。」



⁂⊛~~~⊛~~~⊛~~~⊛~~~⊛~~~⊛~~~⊛~~~⊛~~~⊛~~~⊛⁂



鸕野讚良皇女は目覚めました。

雄鹿の姿を見て、自分の顔を隠そうと袖で覆いました。

直ぐ傍に居た女孺(にょじゅ)が聞きました。


「上皇様、白湯なと召し上がられますか?」

「そうね。少し頂きましょう。」


雄鹿が身体を起こして、女孺が白湯を飲ませてくれました。


「美味しいわ。ありがとう。」


ありがとうと言っただけなのに涙が出て頬を濡らしました。


「あら? どうしたのかしら…ね。」

「鸕野讚良皇女様。」

「え?」

「鸕野讚良皇女様、涙を流したくとも流すことが叶わなかったのですね。」

「何を……言ってるの?」

「草壁皇子様、ご逝去の折に泣きたくとも泣けなかったのではありませんか?」

「雄鹿…… 何を、言ってるの?」

「泣いてください。泣いても誰も咎めません。

 ここに居る者は誰一人、鸕野讚良皇女様を咎めません。

 ですので、どうかお心のままに……お願いいたします。」


その言葉がきっかけになり、堰き止められていた涙が溢れるように出てきました。

止められないくらい涙が出てきます。

気が付くと鸕野讚良皇女を雄鹿が抱きしめて言いました。


「鸕野讚良皇女様のお声は、こうしていれば何人(なんびと)にも聞こえません。

 声を殺さなくとも良いのです。お心のままに……。」


雄鹿がしたことは不敬罪と問われる行為でしたが、傍に居た女孺(にょじゅ)も誰も止めませんでした。

鸕野讚良皇女の寝室から毎夜、嗚咽が聞こえて来ていたからです。

声を殺して咽び泣く鸕野讚良皇女に他の者たちも「泣いて欲しい。」と思っていたからです。

涙だけではなく、いつしか幼子のように大きな泣き声を上げて泣いていました。

雄鹿の胸の中で泣き疲れたように寝てしまうまで…………。

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