罪と罰
朝になり草壁に会いに行きました。
草壁の舘は物々しく兵が取り囲んでいます。
ため息が出ました。
この中で草壁は、まんじりともせずに夜を明かしたに違いありません。
様々な想いが草壁の心に去来したと思うのです。
閉じ込められている部屋に入りました。
舎人の唐津に「私の声を聞いたら、直ぐに入るよう!」と伝え、一人で部屋に入りました。
草壁は窶れていました。
昨日よりも窶れていました。
「草壁………。」
「……母上様……。
大津は? 大津は生きていますか?」
「大丈夫よ。生きて私の元へ来てくれました。」
「…大津は……私のことを恨んでいるでしょう。」
「草壁…。」
「恨まれても仕方が無いことをしました。
それは私の罪です。」
「草壁……大津は貴方を…帝になった貴方を支えたいと……支えたいと…
支えると…言ってくれましたよ。」
「…大津が? ……そんな……私が…したことは……帝にはなれません!
帝になる資格はありません。
私は……私は……大津を殺めようとしたのです。
許されない! 許されてはいけないのです。」
「草壁、私を見なさい!……見なさい!!」
「私の罪が無いと思っているのですか?」
「母上様…の…罪?」
「そうです。今まで生きてきて罪が無かったわけではありません。
壬申の乱では大友皇子の命を奪う側に居ました。
罪が無いわけではないのです。」
「母上様…。」
「草壁、貴方が罪の重さ、深さを分かったのなら…
これから、如何にして皆の助けになるかを考えなさい。
助けになることだけが貴方の罪を償うことなのです。
母の言うことが分かりますか?」
「母上様、私は…………。」
「これから、母と共に罪を償いましょう。
いいですね。 草壁…。」
「母上様… 私は生きていて良いのですか?」
「そなたは……
もう一度言います。
生きて罪を償いなさい。それしか償えないのですよ。
皆の助けになる人に……そなたはなりなさい。」
「母上…様……。」
「母と共に生きて罪を償いましょうね。」
「……………は…い。」
「阿閇皇女には会いましたか?」
「いいえ。まだ……。」
「案じていることでしょう。」
「唐津!」
「お呼びでございますか?」
「唐津、今から阿閇皇女と子らをこの部屋に…。」
「はっ。 承知しました。」
唐津が出て行き、暫くして阿閇皇女が子どもを連れて入ってきました。
「皇后様……。此度は………。」
「阿閇、何も言わずとも良い。
案じさせてしまい、そなたには申し訳ないと思っています。」
「皇后様、勿体ないお言葉にござりまする。」
「氷高皇女、吉備内親王、軽皇子
こちらに………。」
「おばあ様にご挨拶なさい。」
「はい。」
「おばあ様、御元気でいらせられました?」
「ええ、ええ、元気でしたよ。」
「草壁、何をしているの? 早う、妃と子らの元へ!」
「母上様……。」
「草壁にも会えました。阿閇皇女にも久しく会えてなかったのに
会えて嬉しかったわ。」
「私は?」
「吉備内親王、貴方にも会えて嬉しかったですよ。」
「氷高、吉備、軽。」
「はい。」
「父上様、母上様の言うことを良く聞いて、元気に過ごすのですよ。」
「はい。」
「草壁、阿閇、また会いましょう。」
「はい。」
「ではね………。」
草壁が藤原不比等がどのような刑に処されたか聞いた時が一番恐ろしいと思いました。
ただ、藤原氏を滅亡させたことによって、これから先に起こる長屋王と家族の自死は無くなりました。
藤原氏の謀略によって謀反を企てたという無実の罪を着せられて、長屋王だけではなく妃の吉備内親王とその子たちの自死を防げたのです。
複雑な想いで舘に戻りました。




