処刑
気が付くまで、どの位経ったのか分かりません。
薬師が傍に居ました。
「行かねば。」
「無理でございます。どうかお身体を労わってくださいませ。」
「高市皇子…高市皇子なのですね。」
「はい。高市にございまする。」
「遅くなってしまいました。今から…。」
「皇后様、もう終えましてにございます。」
「終わった?」
「はい。全て、大津と終え、大津と共にお傍に控えさせて頂いておりました。」
「もう、終わったのですか?」
「はい。」
「どのような採択に?」
「藤原不比等は即刻死罪、その一族も死罪に……
相成りましてにございます。」
「子まで……ですか?」
「はい。皇后様に於かれましては、不本意な採択であると…存じます。
しかし、それしか無いのも事実でございます。」
「草壁の処分は?」
「本来なら……死罪が適当かと……。」
「そうですね。」
「しかし、今は大きなことが起きていないことを知らしめたいと…。
故に、謹慎を1年間して頂くことになりました。」
「謹慎……。」
「申し訳ございません。処分なしには出来かねますので……。」
「そうですね。……軽すぎるくらいです。
これは遺恨を残すのではありませんか?」
「そのために、子の命まで奪うのです。」
「……そう…ですね。」
「不比等は如何に?」
「落ち着いています。覚悟は出来ていると思います。」
「お子たちは覚悟など出来ぬうちに絶たれるのですね。命を……。」
「皇后様………申し訳ございません。」
「何を謝るのです。謝ることなど一つもありません。」
「しばらく、お休みください。後は大津と、この高市にお任せください。」
「頼みます。」
「はっ!」
「高市、明日、草壁に会っても?」
「どうぞ気兼ねなくお会いください。」
「ありがとう。」
「勿体のうございまする。」
女孺が世話をしてくれます。
「草壁……。」
そう呟いていました。
その呟きを耳にした女孺が、そっと涙を拭っていたようでした。
「皇后様、何かお口になさってくださいませ。」
「何も要らぬ。」
「皇后様、御身体に障ります。
何卒、何卒………。」
「何も要らぬのは、そなたのせいではない。」
「皇后様。」
「気にせずとも良い。
暫く、一人で居たい。」
「はっ。」
明日の朝、草壁に会って何を話せばよいのか分かりません。
そして、翌3日。
私が草壁皇太子に会いに行っている間に、藤原不比等とその一族郎党は命を絶たれたのです。
本来の歴史では、その日、10月3日に大津皇子がその命を絶つのです。
謀反の罪により……しかし、令和の世では「持統天皇が謀反の罪を着せた」という人も居ます。
⦅歴史を大きく変えてしまった……。
これが、どういうことになるのか……分からない。⦆
草壁の心が気になりました。




