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慕情  作者: yukko
飛鳥
22/166

処刑

気が付くまで、どの位経ったのか分かりません。

薬師が傍に居ました。


「行かねば。」

「無理でございます。どうかお身体を労わってくださいませ。」

「高市皇子…高市皇子なのですね。」

「はい。高市にございまする。」

「遅くなってしまいました。今から…。」

「皇后様、もう終えましてにございます。」

「終わった?」

「はい。全て、大津と終え、大津と共にお傍に控えさせて頂いておりました。」

「もう、終わったのですか?」

「はい。」

「どのような採択に?」

「藤原不比等は即刻死罪、その一族も死罪に……

 相成りましてにございます。」

「子まで……ですか?」

「はい。皇后様に於かれましては、不本意な採択であると…存じます。

 しかし、それしか無いのも事実でございます。」

「草壁の処分は?」

「本来なら……死罪が適当かと……。」

「そうですね。」

「しかし、今は大きなことが起きていないことを知らしめたいと…。

 故に、謹慎を1年間して頂くことになりました。」

「謹慎……。」

「申し訳ございません。処分なしには出来かねますので……。」

「そうですね。……軽すぎるくらいです。

 これは遺恨を残すのではありませんか?」

「そのために、子の命まで奪うのです。」

「……そう…ですね。」

「不比等は如何に?」

「落ち着いています。覚悟は出来ていると思います。」

「お子たちは覚悟など出来ぬうちに絶たれるのですね。命を……。」

「皇后様………申し訳ございません。」

「何を謝るのです。謝ることなど一つもありません。」

「しばらく、お休みください。後は大津と、この高市にお任せください。」

「頼みます。」

「はっ!」


「高市、明日、草壁に会っても?」

「どうぞ気兼ねなくお会いください。」

「ありがとう。」

「勿体のうございまする。」


女孺(にょじゅ)が世話をしてくれます。


「草壁……。」


そう呟いていました。

その呟きを耳にした女孺(にょじゅ)が、そっと涙を拭っていたようでした。


「皇后様、何かお口になさってくださいませ。」

「何も要らぬ。」

「皇后様、御身体に障ります。

 何卒、何卒………。」

「何も要らぬのは、そなたのせいではない。」

「皇后様。」

「気にせずとも良い。

 暫く、一人で居たい。」

「はっ。」


明日の朝、草壁に会って何を話せばよいのか分かりません。

そして、翌3日。

私が草壁皇太子に会いに行っている間に、藤原不比等とその一族郎党は命を絶たれたのです。

本来の歴史では、その日、10月3日に大津皇子がその命を絶つのです。

謀反の罪により……しかし、令和の世では「持統天皇が謀反の罪を着せた」という人も居ます。


⦅歴史を大きく変えてしまった……。

 これが、どういうことになるのか……分からない。⦆


草壁の心が気になりました。

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