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慕情  作者: yukko
飛鳥
21/166

継ぐ者

「皇后様。」の声で起き上がりました。


「大津皇子様、ご到着の由。

 高市皇子様、宮殿でお待ちでございます。」

「ありがとう。行きます。」

「はっ!」


宮殿へ向かいました。

他の者を呼ぶのは後にして、先に今後の大和政権を支え大倭を作り上げていく皇子に対処法を聞くことにしたのです。


着くと、大津皇子も高市皇子と共に宮殿で皇后を待っていた様子でした。

玉座に向かう前、部屋の片隅に居る雄鹿の姿を見つけました。

「皆、無事だった。」ことに安堵しました。


そして、玉座に座りました。

前を見て言いました。


「頭を上げよ。

 大津皇子、無事だった由、安堵しました。」

「皇后様のご配慮によって、命長らえることが出来ましたこと

 誠にありがとうございました。」

「そなたには申し訳なく思います。

 草壁がしっかり考えを持っていたなら

 このようなことにはならなかったのです。

 大津、申し訳ない。」

「皇后様、何卒、何卒、頭をお上げくださいますよう伏して

 お願い申し上げます。」

「大津、これからのこと……そなたの考えを聞かせて欲しい。」

「はっ! 承知いたしました。」

「高市皇子、何があったかを…そなたは聞き及んでおるのか?」

「はい。今朝から慌ただしく兵が動き、何やら大事が起こっていると

 思っておりました。

 そして、大津皇子の舎人・雄鹿より詳細を聞きましてにございます。」

「お…雄鹿から聞いたのですか?」

「はい。」

「どのように?」

「大津皇子が〈謀反の疑い〉により、(やしき)を兵に取り囲まれている……と。」

「そうか…。」

「今、私が知っていることを、先ず、そなたらに話す。」

「はい。」

「かねてより藤原不比等が草壁に近づいていた。

 不比等は草壁を唆し、大津を葬る計画を立てた。

 大津に〈謀反の疑い〉を被せて……。

 大津は無実である。

 事実無根の〈謀反の疑い〉である。

 不比等は幽閉し、草壁には謹慎を申し付けた。

 そなたらに聞きたい。

 不比等への刑、そして草壁への刑を決めるために……。

 思うことがあれば詳らかに話して欲しい。

 頼みます。高市皇子、大津皇子。」

「皇后様、私は先の帝より、皇太子を支えよと承っております。

 今後も皇太子様を助け、この大和政権を確たるものにしたいと

 願っております。」

「大津、草壁はそなたを殺めようとしたのですよ。」

「残念ながら…… しかし……それは、不比等に唆された故の……

 皇太子様も……不比等に操られておられたと、私は思っております。」

「大津………。」

「皇后様、此度のことで皇太子様は変わられることと存じます。」

「大津……貴方は……。」

「不比等一人に……罪を償わせたいと存じます。」

「それは……公平ではありません。」

「皇后様、公平な世などありません。」

「高市皇子……そなたは、何を言うのです。」

「大津が草壁皇太子様に償うことを求めてはおりません。

 ならば、そのように処するのが……大津の望みではございませんか。」

「では、高市皇子、そなたは如何に処するのか?」

「不比等は、藤原家の者全ての罪とします。

 死罪を………!」

「待ちなさい! 全て……子どももですか?」

「はい。」

「幼子の命を私は奪いたくありません!」

「皇后様、それを成さねばなりません。

 一人でも残れば……今後の大和政権に弓する者となるでしょう。

 ご決断を! 皇后様!!」

「幼子…… 全てですか?」

「男子のみ罪を問います。

 今までと同じでございます。」

「今までと……同じ……。

 では、もし大津の謀反が無実なのに、刑が決まれば……

 大津に子が居ても同じだと……。」

「はい。大津に子が居れば命を不比等は奪いましょう。

 それが謀反の罪の重さなのでございます。

 皇后様は、今まで天智天皇がなさってこられたこと

 ご存じでございます。

 同じことをしなければなりません。」

「高市皇子………。それでは……草壁の心は壊れてしまいます。

 あの子は……大人しく…優しい所があります。」

「皇后様、不比等は覚悟しておりましょう。」

「覚悟………。」

「どうか、皇后様もお覚悟を!」

「覚悟……。」


父・天智天皇の言葉を思い出しました。


「大和政権の中枢に、そなたも居ることを忘れるな。良いな。

 中枢にいる限り、巻き込まれる。覚悟をしておけ。良いな。」


これが、大和政権の中枢を担うということ…?

辛すぎる。


「高市皇子、そなたの子は?」

「はい。6人おります。」

「そうであった…。いつの間にか、そなたは子沢山になっておった。」

「一番上は御名部皇女(みなべのひめみこ)の子であったな。

 確か、名は長屋王……。」

「はい。名を長屋王と申します。」

「そうであった。長屋王……。」


⦅うん? 長屋王??

 あれっ? どっかで聞いたことあるわ。

 あれ……は……、タカラヅカスカイステージで観た……舞台

 なんだっけ?

 長屋王の息子が主役だったっけ?

 長屋王も謀反の罪を着せられるのよね。

 無実の罪を着せたのは……確か……藤原4兄弟。

 不比等の息子たち?!

 歴史を私は変えてしまった。

 不比等の息子が未来、行う罪を……

 今、償わせているのと同じ?!

 同じじゃないわよ! 都合よく考えちゃ駄目!

 でも…… それしか無いのかしら?⦆


「高市皇子、そなたは幾つになる?」

「はい。32に相成りました。」

「そうか…… 大津は24であるな。」

「はい。」

「草壁は25……。」

「もう、そなたらは立派な大人……成人した皇子の言葉に…

 私は従いましょう。」

「皇后様。」

「直ぐに集めてください。全て話し、処する刑も……その場にて決定します。」

「はっ! 直ちに!」

「頼みます。高市皇子…。」

「大津、本当に申し訳ありませんでした。」

「皇后様。」

「これからも政権の中枢で力を発揮してください。」

「はっ!」


「疲れました。少し休みま」


身体がフラっと傾きました。

ふらついた身体を支えてくれたのは雄鹿でした。

しかし、雄鹿の顔も姿も見えなくて、深い闇に落ちるように気が遠くなりました。

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