家族で歩む路
あの不思議な体験を誰にも話せない!と奏真は思いました。
ありえない体験だからです。
誰も信じてくれないでしょう。
あの平城宮の女帝の哀しさ、寂しさ、孤独にただ一人寄り添った………その体験が奏真のこれからの人生に何をもたらすのかは奏真自身も分かりません。
はっきり変わったのは、遠い国での戦争を己が事と捉えられるようになったことでした。
「ウクライナの空の下に、ガザ地区の空の下に、
老人も女性も子どもも居るのに、なんで出来るのかなぁ……。あんなこと…。
国連は全く機能してないし、アメリカもヨーロッパの国々もダブルスタンダード
じゃん。
あんなに小さな子が……なんで殺されなくちゃならないんだよ!」
「奏真? なんか、変わったね。」
「何が?」
「前は余所の国のこと何も言わなかったよ。」
「そうだった?」
「うん。そう……。なんか、コロナに罹ってから変わった。」
「駄目な奴?」
「ううん。違う! なんか大人って感じ…。 素敵だなぁ~♡ って、思う。」
「えっ? 素敵?」
「うん。」
「大人?」
「うん。」
「えへへ……。」
「それは、子どもだよ。 でも、前よりカッコいい♡」
「そお?」
「ねぇ、茉美。」
「うん? 何?」
「いつか、関西に旅行に行かない?」
「行く。行く! 奏真と旅行に行きたい!」
「結婚してさ、夫婦になって行くんだ。一年に一回くらい……。」
「えっ? 結婚?」
「うん。 俺達、まだ高校生だけど、大学出て就職したら……。どうかな?」
「それって、プ、プロポーズ?」
「そのつもりだけど!」
「早いよ。」
「うん。早いね。 でも、茉美しか居ないって分かったんだ。」
「そうなの?」
「茉美は分からないけどね。俺にとっては茉美しか居ないから……。」
「嬉しい。
私、奏真が入院している時ね。奏真の妻だったらいいのになぁ……って
思ったの。面会も出来なかったし、経過も教えて貰えなかったから……。」
「俺達だけの約束で、親には秘密だ。」
「うん。」
「いつか、必ず迎えに行くから!」
「うん。待ってるね。」
幼い約束でした。
可愛い約束でした。
⁑―――⁑―――⁑―――⁑―――⁑―――⁑―――⁑―――⁑―――⁑―――⁑
その6年後、奏真と茉美は約束通りに夫婦になりました。
奏真は社会人になっても、市民団体の吹奏楽に入りトランペットを吹いています。
茉美は、幼い我が子に振り回されています。
そして、子どもと一緒に、奏真のトランペットを聞くひと時が最高の幸せな時間になっています。
奏真は、時々空を見上げます。
そして、小さな声で呟きます。
「帝、私は幸せです。
貴女にも、この幸せを味わって頂きたかった。
そう思っております。
誰が、どんな風に悪く言おうと……
貴女は、貴女の願いを込めた政をなさっただけです。
誰かに敷かれたレールを歩かされただけだった。
そして、歴史は勝者が作ります。
貴女を悪く言う歴史が残っていたとしたら、それは……
貴女に政で勝利した者たちが、勝者のために作られた物です。
自分たちに都合が悪いことは書物に残さなかったでしょう。
貴女は懸命だった。それを私は知っております。
良く頑張られました。充分に………。」
可愛い声で「パパ――っ!」と奏真を呼んでいます。
幼い我が子の声で我に返った奏真は、「パパはここだよ!」と言葉を返しました。
そして、笑顔で走って来る我が子を抱き上げました。
その隣には茉美が居ます。
「戦争が無い幸せな時間が、どうか続きますように!」と奏真は祈りながら、家族三人で歩きます。
長い人生という路を……。




