生還
⦅天井は白かった………。
さっきまで、焦げ茶色だった天井が白い。
見ると、母さんが居た。
母さんだ! 母さん……。母さんが居る!
泣きそうになった。
泣いていたかもしれない。
もう二度と会えないと思っていた。母さん……!
会えた。やっと、会えた。
母さんは泣いてる? ハンカチで顔を……。
泣かないでよ。母さん。やっと会えたのに……。⦆
「母さん、父さんは?」
⦅そう聞いているつもりだったんだけれど、声が出ていなかったようだった。
父さん、早く会いたいな。父さんに会いたいな……。⦆
「奏真。奏真………。」
⦅母さん、さっきから、奏真しか言ってないよ。⦆
「先生? 先生ですか?
今は何年ですか? 令和ですか?」
⦅ちゃんと声、出てるのかな? 自信ないや………。⦆
「小山奏真君、聞こえるよね。」
「はい。」
「今は2024年7月15日だよ。」
「2024年………。戻って来られた。」
「うん、生還したんだよ。少し危なかったけれども、もう大丈夫だからね。」
「はい。」
「何かあったら、ブザーを鳴らしてね。」
「はい。」
「先生、本当にありがとうございました。」
「いいえ、お母さんこそ……。奏真君、またあとで。」
「はい。」
⦅良かった。声、出てた。⦆
「奏真………。良かった。戻って来てくれて、ありがとう。
奏真……。お父さんに連絡してくるからね。待ってて。」
⦅母さん、ちゃんと話せる? 泣いてばっかで大丈夫?
母さん、茉美にも連絡してよ。頼むよ。俺の大切な人だからね。⦆
「母さん……。」
「何?」
「茉美……連絡して。」
「分かってるわよ。……奏真、本当に、良かった。
行って来るわね。」
「うん。」
⦅父さん、早く来て欲しいな。会いたいよ。⦆
「奏真――っ! 奏真、奏真………。』
「父さん、来てくれたの?」
「当たり前だ! お前、親より先に逝かなくって……
良かった………。」
「父さん。」
「うん?」
「もう、疲れた。」
「あ………、そうだよな。寝ろよ。それで、早く元気な奏真に戻ってくれ!」
「うん。……寝るね。」
「おう、おやすみ。」
「おやすみなさい。」
翌日の朝、母親が奏真にスマホを渡しました。
充電は済ませてありました。
「フル充電だね。」
「勿論、茉美ちゃんだけじゃなくてね。お友達、皆さん心配してくださってたから
電話してね。」
「病院でいいの?」
「電話? 看護師さんにお願いしたから大丈夫よ。」
奏真は疲れたら休む時間をとりながら、友達に電話を架けました。
「奏真―――っ! お前………。」
「うん。 帰って来たヨ。」
「おうよ、学校に来いヨ。待ってるぞ!」
「うん。」
そして、スマホを持つ手が震えました。
「母さん、あっちに行ってて! 聞かれたくない!」
「まぁ……。分かったわよ。ちょっと買い物に行って来るわ。」
「うん。長く、ね。」
「まぁ………。行って来るわ。」
「茉美。」
「そうま? 奏真なの?」
「うん。俺。」
「奏真……。奏真、良かった………。」
「うん。茉美、会いたい。」
「うん。私も、会いたい。」
「いつ、会える?」
「奏真のお母さんから連絡を貰えるから、お医者さんがOKって言ってくれたら、
いつでも行くわ。」
「なるべく早くがいいなぁ………。」
「私も………。」
「茉美。」
「うん? 何?」
「呼んでみただけ………。」
「何? それっ…………。」
「悪い。疲れたから切るね。」
「大丈夫?」
「病院だから大丈夫だよ。」
「無理しないでね。」
「うん。じゃあね。」
「うん。バイバイ。」
両親の顔、そして声。
友達の声。
そして、茉美の声。
聞いているだけで涙が出てきます。
⦅戻ってこられたんだ。俺………元の世界に戻ってこられたんだ……。⦆
喜びが沸き上がって来ました。
元の世界に戻れた喜びが静かに、そして広く………広がるように沸き上がって来たのです。




