もう一人の告白
香澄が辰巳涼太の眼差しに気が付かなかった訳ではありません。
なんとなく気付いていました。
気付いていたけれど、はっきり好意を口にされてしまうと困惑してしまったのです。
嫌い!だったのなら簡単です。
嫌な男性では無いのが、「どう返事すれば良いのか分からない」のです。
過去に告白を受けた経験がないからもあり、「付き合ってください。」という言葉に戸惑っているのです。
涼太にばかり意識が向いていてはいけないと思い、次の相談者の資料を読みました。
涼太には返事が出来ないままに日が過ぎていきました。
かずくん、吉井和真君は施設に随分慣れたようでした。
父親・吉井真人も当初と比べると落ち着いてきたようです。
土曜日には父親が迎えに行って、一泊だけ親子の時間を持っているようでした。
「そうですか。振り返らないんですね。」
「そうなんです。父親としてはガッカリです。少しくらい振り返ってくれても……
特に涼太先生が好きみたいで、涼太先生の時は僕の手を放すのが早いんです。
嬉しいような、寂しいような………。」
香澄は何故か涼太の名前を聞き、ドキッとして、そんな自分の変化に驚いていました。
それが顔に出てしまったのではないか、と心配になりました。
「でも、本当に良かったです。
施設に帰るのを嫌がったら、もう預けらるのを止めるでしょう。」
「そうですね。……いえ、そうです。」
「夏休みと冬休みは、お盆と年末年始に自宅で過ごすのですね。」
「はい。」
「今から楽しみですね。」
「はい。…………… あの……。」
「はい?」
「婚活のためのマッチングアプリ………あれで、知り合った人から連絡が入ってた
んです。お幸せに!ってメッセージを入れてからも……メッセージが来ていて、
どうしたものかと…… それで、すみません。」
「?」
「杉本さんのお名前を出してしまいました。」
「えっと…… 分からないのですが………。」
「好きな人が居ると言いました。」
「はい………。」
「その僕が好きな人の名前を杉本さんだと言いました。
すみません。何の職業だとかは言っていません。お名前だけです。
酷いことを勝手にして本当に申し訳ございません。」
「私の名前……… それで、ご納得されたのですか?」
「はい。して頂けたと思っています。」
「もう、私の名前を使わないでください。使ってしまったことは今さら取り消せな
いので仕方ないと思います。二度としないでください。」
「はい。本当にすみませんでした。」
「では、これで終わりますね。」
「はい。………………あの………。」
「何ですか? 他に何か?」
「勝手にお名前を彼女に言いました。」
「そうですね。」
「でも、僕が貴女のことを…………好きだというのは噓ではありません。」
「え…………?」
「どさくさに紛れて、しかも杉本さんが担当してくださっている障害児の父親が、
恋をしてはいけないと分かっています。
でも、僕の気持ちだけはお伝えします。
すみません。お返事要りません。……………失礼します。」
香澄は何があったのか分からず、茫然自失になってしまったのでした。




