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慕情  作者: yukko
令和
128/166

シングルファーザー

担当している障害児の母親が癌により30歳でこの世を去りました。

残された父と子は、二人での暮らしを始めました。

しかし、父親は仕事で帰宅がたびたび遅くなります。

小学1年生の男の子はボランティアさんの送迎を受けていますので、学校へは通学できています。

その日も、ボランティアさんのお陰で学童保育から家に帰れたのです。

家で待っても待っても父親が帰って来ないので不安が募ったのでしょう。

家を出て、泣きながら「パパ! ママ! パパ! ママぁ~!」と両親を探しました。


たまたま、ご近所の方が保護してくださり、自宅の玄関ドアにメモを残してくださったのです。

「かずくん、外で泣いていました。今、うちで預かっています。山田」と………。


遅くなってしまい、大慌てで帰宅するとメモが貼ってあったのです。

父親はご近所さんのお宅へそのまま向かいました。


「申し訳ありません。」

「かずくんね、パパとママを呼んでたのよ。泣きながら探してて………。」

「…………そうでしたか……。本当にご迷惑をお掛けしました。」

「いいのよ。うちは大人ばっかりだから、でも、可哀想に泣き続けてね。

 今、泣き疲れて寝た所なのよ。」

「そうですか。本当に申し訳ありません。」

「お宅の事情を知らないのに無責任だけど、どなたかに見て貰えないのかしら?

 おじいさん、おばあさんがいらっしゃったら………。」

「申し訳ありません。居ないので………。」

「……そう………。」

「私は父親が居るのですが、北海道で酪農をしていますので……。」

「そうなの……。」

「妻は両親ともに亡くなっていまして……申し訳ございません。

 誰にも頼れないので………。」

「そうだったのね。大変ね。身体、壊さないでね。

 貴方が身体を壊したら、かずくん可哀想だわ。」

「はい。気を付けます。今日は本当にありがとうございました。

 ご迷惑をお掛けしないように致しますので………。」

「いいのよ。この位なんともないわ。」

「かずくん、抱いてあげてね。起こさずに……お願いね。」

「はい。抱いて帰ります。」


「かず………。ごめんな。残業になって……ごめんな。帰ろうね。」


父親は子どもを抱きしめて、頭を再度下げてお礼を言いました。

帰宅途中、涙が出そうで……泣かないようにして帰ったのです。


父親が香澄に相談に来たのは、仕事をしながら子育てが難しく、しかも障害児です。

かずくんは、身辺自立も出来ていません。手が掛かります。

助けて欲しい!との父親の叫びのような相談でした。

元々、母親からの相談を受けていた香澄でしたが、初めて父親からの相談を受けたのです。


「お父さん、仕事と子育ての両立は、男性でも女性でも大変です。

 私は、お子さんを施設へ預ける検討をして頂きたいと思っています。」

「施設!………嫌です。息子を捨てろと仰るのですか?」

「お父さん、施設は子どもを捨てる場所ではありません。

 子どもを保護する場所です。保護するのです。

 今のままなら、もし家を出て交通事故に遭ったら………そういう不安がおありに

 なって相談されたのではありませんか?

 お子さんの命を守るために施設への入所をご検討いただければと思います。

 かずくんが元気で健やかに過ごして貰える一つの選択肢です。

 もし、ご検討いただけるのなら、施設を一度見学されるのは如何でしょう?」

「捨てるのではない………そう思って貰えるのでしょうか? 息子に………。」

「毎週土曜日に一泊だけ自宅へ帰ることも出来ますよ。

 かずくんにとって何が一番なのかを考えて頂けないでしょうか?」

「息子は母親を亡くしても、意味を分かっていません。母親を今も探して………

 探しているんです。ママは? ママどこ? そう言うんです。

 そう聞かれる度に説明が出来なくて………。」

「お父さん、泣いてくださいね。男だから泣いちゃ駄目っていうのは間違ってるん

 です。泣いて泣いて、その後、前を向くことが出来るんです。

 先ずは、かずくんとお母さんを亡くしたこと、悲しんでください。

 かずくんは分からないでしょうけれども、お父さんが泣いている姿を見て………

 今までと違うことだけでも感じるかもしれません。

 ママが居ないことを理解できなくても、ママが居なくて違ってしまったことは

 分かるかもしれないから………。

 今のままなら、いつかお父さんの身体も心も限界が来ます。

 限界が来たら、かずくんの世話出来なくなります。

 そうなる前に、一度少し親子の距離が開きますけれども、離れる勇気を持ってく

 ださい。

 もう一度言います。かずくんはお父さんに捨てられたなんて思いません。」

「…………施設の見学に行かせてください。」

「はい。では、紹介させていただきますね。」

「あの………。」

「はい。」

「見学に息子を連れて行っても………。」

「勿論です。かずくんが主役ですから! ご一緒に!」

「ありがとうございます。」


かずくんはお父さんと一緒に施設へ見学に行きます。

その日は香澄も同行するつもりです。現地集合、現地解散で…………。


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