茉美と結衣
智樹のことを好きな女の子が居ます。
同じ会社で同じ部署の女の子です。
何かにつけて話しかけられて、昼休みも傍に来て………。
智樹にとっては疲れる存在でした。
そんな女の子が告白をしてきたのは2度目でした。
⦅2度も勇気があるな。⦆
智樹はそう思っていました。
今までも何人かの女の子に「好きです。付き合ってください。」と告白されたり、手紙を渡されたりしましたが、断るとそれで終わりました。
それが、2度目の「好きです。」という言葉を聞いた時に不思議な子だと思ったのです。
「一度、断ったよね。」
「はい。」
「断ったのに、何故、また?」
「田辺さんに彼女が居ないと分かったからです。」
「………居ないけれど、君と付き合う気は無いよ。」
「絶対に無いですか?」
「絶対に………。」
「もし、ほんの僅かでも可能性があったら、今は好きでなくても…………
好きになるかもしれないですよね。」
「うう~~ん。その自信はどこから来るの?」
「好きだからです。可能性はゼロではないですよね。」
「うう~~ん。限りなくゼロに近いと思わないの?」
「どうしてですか?」
「前に断ったでしょう? 断ったからだけど………。」
「私は……私は、田辺さんでないと嫌なんですっ!」
「あの……… 僕の気持ちは? 考慮してくれないの?」
「田辺さん、好きすぎて、もう私、可笑しくなっちゃいそうなんです。」
「……………………………………………………。」
「可笑しくなっちゃったら、何するか分かんなくなりそうです。」
「いやいや、ちょっと待って! それ、脅し?」
「違います。今の私の気持ちです。」
「それ、脅しだよ。僕にすれば………。兎に角、帰って!ねっ。」
「嫌ですぅ~!」
そう言って、智樹の腕に抱き付いて放そうとしなかったのです。
智樹は振りほどいて言いました。
「ごめん! 僕は付き合ってないけど、好きな人が居るから!」
「嘘よっ!」
「嘘じゃないよ。もう長い片思いなんだ。」
「じゃあ、私と!」
「無理だよ。君と真逆なんだ。僕が好きな人……。
だから、無理だから! 悪いけれど、もっと、いい人を見つけて!」
そう言って智樹は全力疾走して帰宅しました。
結衣に話すと、「強烈ね!」と笑い転げています。
その時に茉美が「香澄お姉ちゃんとは、どうなったの?」と聞いてきました。
智樹がビクッとして少し硬直した様子でした。
「どうもしないよ。」
「付き合ってないの?」
「付き合ってないよ。」
「どうして? ねぇ、どうして?」
「説明は難しいよ。」
「そうよ。茉美ちゃん、これは智お兄ちゃんの大切な心の話だからね。
茉美ちゃんは見守っていてね。」
「ふ~~ん。見守る。不本意だけど、結衣お姉ちゃんの言うことだから聞く。」
「茉美、お前こそ、彼とどんな付き合いをしてるんだ?」
「どんなって?」
「まぁ、あれだ。………あれ……。」
「キスしたか?ってこと?」
「お前! キ……ス………。高校1年生だぞ。」
「高校1年生とか関係ないもん。」
「したのか?」
「したよ!」
「あ…………。」
「智兄ちゃん、どしたの?」
「あのね。茉美ちゃん、智お兄ちゃんは今そっとしてあげて、ね。」
「うん?」
「茉美! お前………お前………あの……なんだ……高校生らしいお付き合いをしなさい!」
「高校生らしい?」
「そうだ! 高校生らしいお付き合いだ!」
「何が?」
「だから………その……なんだ………あれを……だな……。」
「あぁ、SEXのことね。」
「え……………………………。」
「茉美ちゃん、子どもが出来るようなことは駄目よ。それと、性病もね。
だから、必ずコンドームを使うように! それを使ってくれない男なら速攻で
別れるのよ! いいわね。」
「はい!」
「どしたの? 智兄ちゃん。」
「茉美ちゃん、お兄ちゃんね。今、とっても、とぉ~ってもショックだったの。
優しく見守ってあげてね。」
「うん。」
「智樹さん、大丈夫よ。茉美ちゃん、妊娠したりしないから、私、教えてるか
らね。」
「結衣さん、僕は、僕は、今、茉美の妊娠とかじゃなくて……彼と……そういう
ああ―――っ! 可愛い妹なのに、いつの間にか…くそっ!」
「妹は生きていてくれれば、いつかは女になるのよ。
正樹さんも、貴方も兄弟そろってシスコンだったのね。」
結衣の笑い声は続きました。
茉美と結衣のお陰で、時間を楽しく過ごせていると、心密かに感謝している智樹なのです。




