表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
慕情  作者: yukko
令和
117/166

和歌山

香澄は畝傍駅に向かう間、顔を上げられませんでした。

涙が止めどなく流れ落ちるからです。

3度のめぐり逢いをした智樹との別れ………。

考えてもいませんでした。

涙を止められない……その顔を誰にも見られたくありません。

ずっと顔を伏せたまま、畝傍駅から和歌山を目指しました。

畝傍駅を電車が出る時に、香澄は車窓から大和三山を見ました。

そして、大和三山に別れを告げました。


「さようなら………。飛鳥………。飛鳥での日々…………。

 さようなら……。さようなら……。雄鹿…………おじか……。」


「さようなら………先輩………。」



⁑~~~⁑~~~⁑~~~⁑~~~⁑~~~⁑~~~⁑~~~⁑~~~⁑~~~⁑



乗り継いで着いた和歌山の駅に杉本本家の現当主が待っていてくれました。


「香澄ちゃんやな。」

「はい。」

「ようおいでたの。」

「お世話になります。」

「ふん。ほな、行こか……。」

「はい。」


車に乗って祖父(父方の母の父親)の実家である杉本本家へ向かいました。


「香澄ちゃんは、偉いなぁ。」

「何がですか?」

「そやかて、児童相談所に勤務って……偉い大切な仕事やしなぁ。」

「そんなことありませんよ。」

「いやいや、偉い仕事してなさるわ。ほんに、偉い仕事や。」


褒められすぎて居心地が悪くなりそうでした。


「着いたで! ここや。えらい古い家やろ。築何年か分からんほどや。」

「帰ってきたでぇ~。」

「まぁ、お帰り。」

「香澄ちゃんや。」

「初めまして、香澄です。」

「まぁ、ようおいでなして。」

「皆さん、待っておいでやからの。早よ、入り。」

「はい。お邪魔します。」

「遠慮はいらんで! 香澄ちゃんの田舎の家からの。」

「ありがとうございます。」

「さ、早よ早よ。」


招かれた部屋に、高齢の男女が居ました。


「香澄ちゃんや。」

「おう、よう来なさったなぁ。」

「ほんに、ようおいでなして。」

「初めまして、香澄です。」

「まぁまぁ、大きゅうなりなさって、別嬪さんになりなさって…。」

「ほんに別嬪さんや!」


香澄は恥ずかしすぎて顔が真っ赤になりました。


「香澄ちゃん、わざわざ、来て貰うたのは、の。

 杉本家の花嫁衣裳を渡すためやしてよ。」

「花嫁衣裳ですか?」

「ふん。香澄ちゃんのお()さんがの、もう使わなんのやったら欲し!

 そう言うたんやして。」

「父が?」

「そうやして。」

「でも、私、結婚する予定がありませんけれど……。」

「なんやて? ほな意味ないなぁ………。」

「はい。」

「ま見て頂かして。これが白無垢綿帽子やして、え。」


衣紋掛けに掛けられている花嫁衣裳の見事さに目を奪われました。

不思議なもので花嫁衣裳を見ていると、智樹が話していたことの情景が目に浮かぶようでした。


⦅これを着て先輩と結婚式を挙げたんだ。⦆


不思議なことに香澄の目に涙が溜まっていきました。


「なんえ? 香澄ちゃん、どないどしたんかいし?」

「……なんだか、変ですね。」

「この花嫁衣裳はのし。(わたえ)のお()さんの祝言の時のも着なさったんやして。

 そのお()さんのお()さん、(わたえ)のお()やんの祝言の時に作りなさった花嫁衣裳やし

 て、え。」

「そんなに古い花嫁衣裳なんですね。」

「そやして、そいから、この簪、見て頂かして。」

「はい。」

「この簪はお()やんの旦那(だな)さん、(わたえ)のお()やんがお()やんに贈りなさった簪や

 して。」

「そうなんですね。」

「簪を男が女に贈る意味があるんだよ。」

「まぁ、知ってなさったんかのし。」

「そりゃ、知っていますよ。お婆さん。」

「将来を誓うと言う意味と貴女を守りますと言う意味、でしたよね。」

「まぁ、よう覚えておいででございますのし。」

「今ならプロポーズの時に贈る指輪と同じ意味に加えて、貴女を守りますなんだか

 らなぁ。昔の日本の男もなかなかのもんだったということですね。」

「親が決めた結婚やったんやして。そやのに、お()やんのことお()やんは、ほんに

 ほんに大切になさって……そない聞いてます。

 香澄ちゃんも結婚なさるんやったら、香澄ちゃんを大切になさるお方と……

 そいが幸せやして。」

「………そうですね。そんな方と結婚出来たら幸せですね。」

「この花嫁衣裳、もう(てえ)に取ることなんぞ無い思うてましたのし。

 香澄ちゃんのお陰で、こないして(てえ)に取らさせて頂いて、ほんに、ほんに有難い

 ことやと思うてますのよし。香澄ちゃん、おおきに。」

「そんな、こちらこそ目の保養でした。ありがとうございました。」

「じゃあ、もう片付けるんですね。」

「そやして。」


和歌山で一泊して帰路に就きました。

智樹が言っていた通りなのかもしれません。

前の香澄の結婚相手が智樹と知ってから、香澄は智樹のことを想うようになりました。


⦅あの花嫁衣裳、先輩、見たかったんじゃないかしら……。

 綺麗だったって言ってた。あの花嫁衣裳を着た前の令和の私のことを……。⦆

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ