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慕情  作者: yukko
令和
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さようなら

ゆっくり息を吐いてから智樹は話を続けました。


「香澄ちゃん、君は前の令和で誰と結婚したのか知りたがっていたよね。」

「はい。知りたかったんです。」

「僕が何故、言えなかったか分かる?」

「いいえ、今も分かりません。だって、今教えてくれたから………

 分かったような気がしたのに、分からなくなっちゃったの…………。」

「そうだよね。ごめん。あの頃、僕は覚悟が出来ていなかったから………。

 ごめんね。混乱させただけになってしまって…………。」

「謝らないで! お願い。」

「ありがとう。…………教えなかった理由だけど、君が前の令和での結婚相手を

 知ったら…………たぶん君は僕を意識しただろう…………。

 僕を意識してしまったが故に、君は勘違いをするだろう。僕に恋したと……。

 恋してなどいないのに………そう思い込んでしまうかもしれない。

 それは、香澄ちゃん、君にとって幸せなことじゃないよ。

 だから、話す気が無かったんだ。でも…………思い直した。

 全て話して、その上で勘違いが起きないように………。

 前の令和の僕たち夫婦だったけど………今の令和の香澄ちゃんと僕との関係は、

 ただの高校のサッカー部の先輩と後輩、ってだけだと話せばいいんだと………

 そう、思い直して、話す覚悟を決めた。」

「………私…… 真帆が言ってました。先輩のこと初恋の人だって!」

「違うよ。僕じゃないよ。それは兄さんだよ。中学の時に図書館で出逢ったのは、

 僕じゃないって話したよね。」

「でも………。」

「僕じゃないよ。ただ………双子だと知らなかっただろう。知らなかったから、君

 は、兄さんを僕だと高校入学後に出逢った時に間違っただけだよ。

 もう一度言うよ。この世界での香澄ちゃん、君の初恋の人は正樹だよ。」

「………じゃあ、私は図書館での出逢いをした後に、高校で出逢った先輩を………

 間違ってしまったんですか? 間違って初恋の人だと思っただけだと………。」

「そうだよ。それだけ……。」

「……私………。」

「これが全てだよ。…………和歌山に行くんだったよね。」

「はい。」

「そこに、たぶん、あると思う。」

「何がですか?」

「………香澄の花嫁衣裳………。」

「花嫁衣裳?」

「うん。香澄の大叔母さんが持って来てくださった大切な花嫁衣裳。

 白無垢綿帽子、赤の打掛、角隠し、黒引き振袖……そして、ご先祖様が…

 ご先祖様が妻に贈った簪、3本あった。

 香澄、綺麗だった…………。」


智樹は大粒の涙を幾つも落として、それ以上の言葉はありませんでした。

智樹の姿を見て香澄は智樹の背中を優しく撫でていました。無意識に撫でていました。

そして、その背中に顔を埋めたのです。


優しい飛鳥の風の中で、一瞬、二人は鸕野讚良皇女と雄鹿になり、そして、前の令和の香澄と智樹になれたのです。

背中を向けたままで智樹が言いました。


「香澄ちゃん、和歌山へ行かないと、ね。」

「はい。」

「気を付けて!」

「はい。」

「香澄ちゃん、お別れだね。もう会わないよ。今日が最後。」

「………それが先輩の覚悟なんですか?」

「そうだよ。もう二度と君の前には現れないから、お互いに別の人生……

 別の人生を懸命に生きよう!」

「…………先輩………。」

「さようなら! 香澄! ありがとう!」


智樹の背中に香澄は静かに頭を下げました。

そして、畝傍駅へ向かいました。

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