前の令和の香澄
智樹の頬を涙が伝わって落ちていきます。
香澄の頬にも涙が止めどなく流れ落ちていきます。
⦅こんなにも、愛されていたんだ。私……。⦆
「……教えてください。……どうして、雄鹿は赤い糸で……繋いだのですか?」
「それは、前の令和のあの地震のほんの少し前、香澄が言ってくれたんだ。
僕とずっと一緒に居たいから赤い糸の伝説をしたい!って………。」
「私が?」
「うん。前の令和の香澄だよ。
この今の令和と前の令和では違いがあって………前の令和では、香澄のお婆さん
が亡くなったのは年末だったんだ。そして、葬儀は1月4日だった。」
「……違う……。」
「そうだね。こういう違いは他にもあるんだよ。」
「他にも?」
「うん。先に赤い糸のことを話すね。」
「はい。」
「あの日、1月1日にお婆さんが亡くなったことで何某かの不安があったんだと
思う。だから、香澄は急に僕に頼んだんだ。
赤い糸の伝説を説明して、赤い糸を持って来て、二人が永遠に一緒に……って
ずっと一緒に居たいから繋いで欲しいってね。
それくらい!って思って繋いだんだよ。
嬉しそうだったな。泣きそうな顔で微笑んだんだ。あの顔が最後に見た顔だっ
た。あの時が香澄の声を聞いた最後だった。」
「そうだったんですね。」
「うん。だから、赤い糸を繋いだんだ。飛鳥で鸕野讚良皇女様と僕、雄鹿を……。
どうしても、もう一度、香澄に会いたかったから……。」
「……どうして持ってたんですか?赤い糸……。」
「何故なんだろう。気が付いたら持っていたよ。鸕野讚良皇女様に巡り合えた日よ
り前に、持っていたよ。何故なんだろう? それに、なんとなく宝物みたいに
……持ってたな……。」
「前の令和と今との違い……他には?」
「先ず、香澄ちゃんとの出逢いが全く違ってた。」
「私との出逢い?」
「うん。最初に君に会ったのは、前の令和では僕だった。
でも、今は……………兄さんだった。
場所は変わらなくて、中学3年生だったのも同じで……でも、違ってた。」
「どういう風に?」
「前は僕が最初に会って、僕が本を取ってあげた。今の令和では兄さんだった。
僕はそれを見ていた……。
その時に諦めた。この令和での香澄が恋する相手は、兄さんだと確信したか
ら……だから、諦めた恋だった。最初から………。」
「私が恋する相手……図書館での出会い……。」
「うん。だから、兄は香澄ちゃんと結婚すると思ってた。」
「でも、違うわ。」
「うん。結衣さんは前の令和でも兄嫁だったんだ。何故か、結果は同じだった。
だから、分からなくなったんだ。僕は……。
香澄ちゃんの進学先と就職先が全く違っていたことも、僕には驚きだった。」
「他には?」
「もう、無い……よ。」
「…………私、妊娠してたんですよね。」
「うん。」
「お腹の子の性別は知ってました?」
「うん。教えて貰ったんだ。」
「どっち?」
「男の子……だった。香澄は3人欲しいって……そう言ってた。一人っ子だから、
3人欲しいって………言ってた。」
香澄は産んであげられなかった子に想いを馳せました。
そして、一人っ子だから3人欲しいと言った前の令和の香澄にも想いを馳せたのです。




