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慕情  作者: yukko
令和
114/166

藤原宮跡

畝傍駅から徒歩で30分の所に藤原宮跡があります。

智樹と二人で歩いていると不思議な気分でした。

服装も違うのに、まるで二人がいる僅かな空間だけが、飛鳥なのです。

香澄にとって、飛鳥の空間です。

畝傍駅からゆっくり歩いて藤原宮跡に到着すると、涙が止めどなく流れました。

香澄は涙で周囲の景色が霞んで見えにくくなっています。


「香澄ちゃん? 大丈夫?」

「大丈夫です。心配かけてごめんなさい。」


智樹がそっと涙を拭ってくれました。


「先輩、連れて来てくださって本当にありがとうございます。」

「いやぁ~、僕も来て良かったよ。………ここからは、大和三山全てを眺められる

 ね。今も、飛鳥時代も……同じだね。」

「はい。」

「私、この藤原宮で死んだんですよね。」

「うん。そうだよ。」

「死ぬ何年か前に宮殿をこちらに移したんですよね。」

「そうだよ。」

「この……どこかに雄鹿は眠っているんですね。」

「そうだね。そして、鸕野讚良皇女様も…ね。」

「鸕野讚良皇女の陵墓は分かってるんですね。」

「うん。天武天皇の陵墓の隣じゃないのかな?」

「夫の隣ですね。」

「うん。」


その会話の後、暫く沈黙が二人を包みました。

二人の頬を飛鳥の風が優しく撫でていきます。


「香澄ちゃん。」

「はい。」

「雄鹿の最期を話すよ。」

「はい。お願いします。」

「雄鹿は、自分の左手薬指に赤い糸を括りつけて、亡くなった鸕野讚良皇女様の御

 傍近くに行ったんだ。

 御傍近くに行き、様々な儀式の打ち合わせを行われた岡宮太上天皇様と長屋王様

 お二人が退席されて、他の者も退席した一瞬だった。

 僅かな一瞬に毒を飲み、鸕野讚良皇女様の左手小指に赤い糸を括りつけたんだ。

 そして、願ったんだ。」

「………何をですか?」

「再び、会えますように!と……。次こそは守るから、会わせてください。

 と……。」

「そしたら、会えたんだ。今度は令和で………。」

「……う………っ…………うっ…………。」

「泣かないで……。愛してるんだ。ずっと僕は前の令和から……ずっと……。

 僕が愛した女性は香澄だけなんだ。」

「…う……っ……………………。」

「ごめん。言わないでおいた方が苦しめないよね。

 でも、覚悟を決めたんだ。全て話すという覚悟を……。

 辛いと思うけど、聞きたくなかったら、教えてね。

 君が知りたくないことは話さないから……。」

「…………う…………う……っ……… は……い……。」

「前の令和で僕は初めての恋をしたんだ。図書館で出逢った可愛い女の子に。

 その時は、僕が高校受験の前の中学3年生だった。

 その女の子とは、高校進学したら部活に忙しくて図書館に行けなくなって

 会えないまま……終わったんだ。

 でも、僕に幸運の女神が微笑みかけてくれて…………再会できたんだ。

 高校3年生の時に、その女の子がサッカー部に入部してくれたんだ。

 マネージャーとして……ね。」

「私?」

「そうだよ。香澄。」

「香澄にとっての初恋も僕だったんだ。お互いに図書館で出逢って想いを寄せて

 たんだ。

 僕は高校1年生から紗奈……違う、谷口さんから告白を受けて付き合ってたん

 だ。でも、好きになれなかったんだ。今も申し訳なく思ってる。

 部室でみんなの前での告白だったから、断れなかったんだ。

 僕が優柔不断だからで………谷口さんには本当に申し訳なかった。

 彼女は一つだけ条件を付けたんだ。

 その条件は、卒業までは君に告白をしないこと………だった。

 その条件の通りに、僕は……卒業式まで何もしなかった。

 それは、怖かった。何もしないってことは君が誰かの告白を受けて付き合った

 としても見ているしか出来ないってことだったから………………。

 でも、ラッキーなことに君は誰からも告白を受けなかったんだ。

 めっちゃ嬉しかったよ。僕の卒業式まで君は誰とも付き合ってなかったか

 ら……。

 卒業式の後で、渡したんだ。」

「……何を……?」

「学生服の第二ボタン。」

「第二ボタン………。」

「そして、僕は想いを伝えたんだ。

 好きです。付き合ってください。って………。」

「私は?」

「OKしてくれたよ。

 嬉しいことに、君の初恋の相手……僕だったんだ。」

「そ……そうなの……。」

「それから、僕が進学した大学に、君も進学してくれて…………。

 君が大学を卒業して銀行に就職して、割と直ぐだった……。

 僕はプロポーズしたんだ。

 君は受けてくれて……幸せだった。

 結婚式、新婚旅行……そして、君の妊娠、その全てが幸せだった………。

 幸せだったんだ………。

 あの日……あの日……地震さえ来なかったら、僕らは………

 地震が………僕と香澄の幸せを奪った!

 僕は………僕が繋いでいる手の中に香澄の手があって……。

 その香澄の手が段々冷たくなっていく………。

 何度も名前を呼んだ。でも、返事はなかった。なかったんだ。

 助けを必死になって呼んだ。でも、誰も助けてくれない。

 聞こえなかったんだろうと……思う。

 そのうちに僕も意識がなくなった。

 香澄のお腹の中の子も一緒に……。

 だから、絶対に君を助けたかった! 助けたかったんだ!」


智樹の目は涙でいっぱいになっていました。

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