幼子たち
舎人の案内で草壁が遊んでいる部屋に向かう間、頭の中は一つのことで占められていました。
⦅大和政権……
血で血を洗う……歴史だったんだ……。
兄弟での諍い、叔父と甥での諍い……。
巻き込まれたくないし、巻き込みたくない!
回避したい。
全ての諍いを……。
壬申の乱…止められないのかな……。⦆
⦅隼別皇子
確か……宝塚スカイステージでやってなかった?
違うかなぁ~……ま、いいか………。
あ…………雄鹿……居るのかな?
居たら、どうしよう………。
平静を装えるかなぁ…… めっちゃ不安……。⦆
部屋に着くと、元気な子ども達の声が聞こえてきます。
草壁が大きな声で駆け寄りました。
「母上様ぁ~~~っ!」
「叔母上様ぁ―――っ!」
「叔母上様ぁ。」
一人一人を順番に抱きしめました。
この子たちが憂うこと無いようにしたいと抱きしめながら思いました。
その様子を見つめている舎人に気が付きました。雄鹿です。
「お……雄鹿……。」
「はい。覚えていてくださったのですね。
私のような者の名前まで覚えてくださるとは……。」
「そ…そんな……当たり前よ。」
「ありがとう存じます。」
「…いいえ…。」
「母上様、お顔が赤いです。」
「えっ? そう? そんなことありませんよ。」
「そうなんですね。」
「ええ……そうですよ。」
「ねぇ、叔母上様、今日はこちらですか?」
「いいえ、もう帰りますよ。」
「ええぇ―――っ! もう帰るのですか?」
「はい。」
「………もう少し……駄目ですか?」
「駄目ですか?」と言った大津皇子は袖を掴み放そうとしません。
その姿が愛おしくて仕方がありませんでした。
「皇子様、またお伺いいたします。」
「本当ですか?」
「本当ですよ。草壁と一緒に参りますから……。」
「その日が来るまで、皆の言うことをよく聞いてくださいね。」
「はい!」
愛らしい大伯皇女と大津皇子。
その二人を大和政権の諍いに……居させたくはありません。
どうすれば回避できるかを今までよりも考えないといけないと思いました。
無理かもしれないという気持ちが無いわけではありません。
大きな歴史の中で、その流れの中で、流れを止めたり、変えたり出来る力があるとは思えないからです。
二人に別れを告げて、参内を終えた鸕野讚良皇女は草壁皇子と二人で歩いています。
迎えの舎人の所まで、雄鹿が送ってくれました。
天にも昇る気持ちを必死に抑えながら……歩きました。




