智樹
香澄と会ってからの智樹が変だと正樹は思っています。
智樹は変になったのではありません。
はっきりと香澄への想いを諦めたからでした。
智樹は「飛鳥の雄鹿ではなく、前の令和の智樹でもない」今の智樹を香澄に見て欲しかったのです。
でも、香澄の心は「飛鳥の雄鹿」で占められていることが、先日会った時に分かったのです。
あれから、仕事はいつも通りに熟しています。
仕事は……です。
それ以外は茫然自失の毎日を送っているのです。
そんな日々でも香澄への想いは深くなることはあれ、薄れていくことが無いのです。
智樹は思いました。
⦅僕も香澄ちゃんと同じなのかもしれない。
僕は前の令和の香澄に引っ張られているのかもしれない。
身動きできないほどに、前の令和の記憶が今の僕の全てになっている。
僕も過去に縛られているんだ………。
香澄ちゃんと同じだ………な……。
もう一度、前の令和に戻りたいなぁ……。
そうすれば、香澄と二人とも地震で死なないで、
今頃、生まれて来た赤ちゃんを抱いているんだろうなぁ……。
香澄……会いたいよ……。⦆
⦅もし、今の香澄ちゃんが、飛鳥の雄鹿ではなく、今の僕を見てくれたら……。
僕は、今の僕を見て欲しかった。今の僕を………。⦆
⦅前に進むって、どうしたらいいんだろうか? 全く分からないな。
情けないな。振り向いてもらえないくらいで……。情けない……。⦆
どんな想いでいても時は流れていきます。誰にも等しく……




