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香澄
梅雨の雨がしとしとと降っていて、窓ガラスに雨粒が流れ落ちていきます。
窓ガラス越しに外を見ると、紫陽花が雨に打たれて綺麗な色をより一層鮮やかに咲いています。
「もう二度と帰って来れないと思っていたのに…帰って来られたなんて……
奇跡……ね。」
そう呟きました。
その呟きは誰の耳にも届きません。
⦅帰って来てから1年になるわね。早いわ。⦆
そう思いながら、記憶が次々と甦ります。
帰って来た時、香澄は病院のベッドで横たわっていました。
香澄の周りを家族が取り囲んでいました。
⦅あれっ? ここ……どこ?⦆
「香澄!」
「先生! 香澄が!」
「診察しますので…」
⦅あれっ? お父さん? お母さん?
私、帰って来られたの?⦆
医師の診察を終えて、香澄は生死の境だったと知ったのです。
⦅じゃあ、あれは、何だったの? 夢?⦆
そう思いました。
⦅あ……… あった……… 夢じゃ……なかった………。⦆
香澄は夢だったのかと思う記憶が現実の体験だったという証を見つけたのです。
自分の手首に…!
香澄が事故に遭った記憶の前には着けていなかった物が手首にあったのです。
⦅あれは夢じゃない。私は…あの世界に居たんだ。
あの世界に……。⦆




