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アイドル王子(自作自演)と、深窓の姫君(余計なコブ付き)の、【偽装結婚】?!  作者: 工藤 でん
第八章 君を手に入れるために

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逃走中

ラヴィリアは応接室で、普段よりだいぶ穏やかな表情のカルロスと対面していた。ラヴィリアの背後では、すっかりラヴィリアの専属護衛となったカリンも、呆れたように話を聞いていた。


「……つまり、エディはわたくしに会うのが怖くて、怖気付いて逃げた、と」

「そうなります」

「逃げることあります?

カルロス、わたくしの病気が魔法の操作よるものだということ。さらに付与魔術(エンチャント)からの回復のために、リハビリをしている件も話してあるんですよね?」

「もちろんです。報告は逐一させていただいております」

「もう『王族接触拒絶症』を起こすことは無いのに。なんで、逃げるのです」

「王族という自分の存在により、目の前でラヴィリア姫が病を発症したショックは、計り知れないものだったでしょう。さらにラヴィリア姫の『来ないで』発言は傷をえぐっていたかと」

「それはっ……本当に申し訳なかったと思います。

……ですが、カルロス?」

「なんでしょう」

「どうしてあなた、そんなに嬉しそうなのです?」


ラヴィリアの言葉に、カルロスは声を上げて笑った。遠慮なく笑うカルロスを、ラヴィリアは初めて見た。


「『陛下』ではない、『エディ』を久々に見たもので。

それも、怖くて逃げ出すなど、なんてエディらしい」

「……どういうことですか?」

「エディは今、『ちゃんとした国王陛下』になりきり中です。『ちゃんとした国王陛下』である限り、誰にも文句は言わせない。そんなつもりでしょう」

「……それは、もしかして。

自分の心をを守るための、エディの自衛行動……」

「その通りです。

おかげで仕事ははかどってありがたいのですが、『ちゃんとした国王陛下』など、にわかに出来ることではありません。破綻しかかっています。

そこへ、自分の素を認めてくれた、唯一甘えられる対象がやって来ましてね。同時にトラウマである『王族接触拒絶症』を思い出したのでしょう。突然パニックになって逃げ出した」

「……バカですね」

「はい、その通り。バカなんです。もう、私は可笑しくて。

エディはどんなに背伸びしても、エディです」


早くこの緊張から解放させてあげてください、と第二王子の副官から、宰相補佐にのし上がった男は言った。





「ランドレイク侯爵、マフマクン侯爵。

エディはこちらにはいませんでした?」

「これはラヴィリア姫。執務室へようこそ。

陛下でしたら鍛錬場に向かわれましたよ。兵卒の修練熟度を見るとか」

「どう考えても、今見る必要はないんですがねえ。すぐさま戦が始まるわけでもあるまいし」

「むしろ、内政のイザコザを片付けていただいた方がありがたいのですが」

「……エディを見つけたら、首根っこ捕まえて執務室に連れてきますね」

「姫様は、なんと勇ましい」

「いざという時は、ラヴィリア姫に頼った方がよさそうですね」

「鍛錬場には、マシューもいるかと思います。行ってみてください」




「マシュー、エディはこちらにいませんの?」

「あ、姫さん久しぶり。

エディならさっき、しこたま剣の素振りして帰ってった」

「……何しに来たのでしょう」

「わかんねえ。

……こらー、よそ見してんな! 今のでお前ら全員死んだぞ!」

「マシュー、エディがどこにいるか……」

「姫さん、邪魔。鍛錬の邪魔。

姫さんチラ見して、兵士の集中力切れるから。どっか行って」

「マシューは、歯に衣着せないですね……。

エディはどこに向かいました?」

「工事の進捗聞きに行くって。多分キースとブレイカーんとこ。内務卿の副執務室」




「キース、ブレイカー。エディ知りません?」

「おー、姫さんかあ。……なんか、ちと太ったか」

「ああ、丸くなったなあ」

「女性に対して、いきなりものすごく失礼じゃありません?!」

「これまでが痩せすぎなんだよ。今ぐらいがいいぜ。というか、俺の好みとしては、もっと肉つけた方がいい。

なんせ姫さん、今までいいもん食ってなかっただろ?」

「何をおっしゃてるのやら。ヘビとかネズミとかミミズとか、高タンパク低カロリーな健康食を……」

「……今一瞬、ミミズとか言ったか? 釣りのエサじゃあるまいし」

「姫さんよお、毎晩オージに揉んでもらえよ。ちったあ、凹凸できんじゃねえ?」

「な……!揉む………は、はは破廉恥な!」

「ああ、オージじゃねえな。ヘーカか。

なんだよあいつ、まだやってねえのか」

「出会ったその日にベッドインするブレイカーには、言われたくねえんじゃねえか?」

「そういうキースは何日かけんだよ」

「まあ……二日かな」

「とにかく!

エディ見ませんでしたか? ずっと探しているのですけど」

「国王なんだから、執務室で仕事じゃねえの?」

「わたくし、執務室から探してるんですけどっ?」




「カルロス! エディがいません!」


執務室に入るなり、ラヴィリアは仕事中のカルロスに噛み付いた。ランドレイク侯爵とマフマクン侯爵は、ラヴィリアが入室した時点で、下を向いて笑いを噛み殺している。カリンは呆れを通り越して、少し面白くなってきていた。


カルロスはにっこりと微笑んで執務室の窓を指さした。窓が片方開いていた。


ラヴィリアが窓に駆け寄ると、壁をつたい屋根に飛びつきぴょんぴょんしながら逃げる、チョコレート色の頭が見えた。


「エディー!!!」


声が聞こえたかは不明だが、チョコレート色の頭は物陰に隠れ、見えなくなった。

カリンがたまらずに吹き出した。



ランドレイク侯爵とマフマクン侯爵が、のほほんと感想を述べる。


「陛下は運動神経がいいのですね」

「オーサ公爵の罠にかかりかけて、夜に壁伝いでマシューの部屋まで逃げたことがあると聞いてますが」

「ああ、例のハニートラッ…………ごほんごほん、あれね」

「陛下にとっては慣れ、ですね」

「もはや日常でしょう」

「そこでほのぼの会話しないでください!」


プンプン怒っているラヴィリアは、ただの可愛い娘である。二人の侯爵にとってラヴィリアは、駄々をこねる幼い子供のような心持ちでいた。

まあまあと、カルロスがラヴィリアをなだめにかかった。


「ラヴィリア姫も、同じことをなさっていたではないですか。エディがナプルでの怪我から回復した時、会うのを避けていらっしゃいましたよね」

「わたくしは、あの時は、事情があったから……」

「今は、その事情も含めて、エディと仲良くされているのでは?」

「う」

「あれからより親密になれたのは、その事情を共有したから、ではないですか?」

「カ、カルロスは意地悪ですよね?!」

「何をおっしゃる。心外ですね」

「カルロスは意地悪でーす」

「腹黒いでーす」


二人の侯爵が合いの手を入れてくる。このおじさん達は完全に遊んでいた。

なのに手元の書類は次々と処理されているから驚きだ。ポンポンと積み上げられた書類を、事務官がそろーりと回収していく。新人の事務官は、畏れ多くてこの人たちの会話には入っていけないでいる。


「私の経験上、エディは追いかけたらひたすら逃げます。とっ捕まえるまでが、骨を折りますね。

捕まえたらこっちのもので、如何様にもできるのですが」

「……カルロス。発言が、そこはかとなく黒いですよ……」

「気のせいですよ。事前に選りすぐりの厄介案件貯めておこうなんて、思ってもいませんから。

それよりも、ここはエディを捕まえる手段を模索しましょう」

「捕まえる手段……追いかけたら逃げられますものね」

「ですから、ここはおびき出し作戦が有効かと。エディにとって最高の餌となる、ラヴィリア姫がいらっしゃいますし」


ラヴィリアはカルロスを見返した。ラヴィリアから逃げ回っているエドワードを、ラヴィリアを使っておびき出す。

どうやって? これだけ逃げられているというのに。


カルロスは穏やかに微笑んで、人差し指を立てた。そのままコメカミをトントンと叩いて見せた。微笑みの奥に、捕食者の影が見え隠れしていた。


「エディの行動パターンは把握済ですから。

正面から追いかけるから、逃げるのです。向こうから近づいてくるように仕向けないと」

「そんな方法あります? エディはわたくしを避けて通っているんですよ」

「確実な方法があります。ぜったい罠にかかります。

では、準備に入りましょう、ラヴィリア姫」


確信を持ったカルロスの言葉に、訳が分からないままラヴィリアは頷いた。


カルロスの罠が仕掛けられます。あのチョコレート、ひっかけましょう。

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