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アイドル王子(自作自演)と、深窓の姫君(余計なコブ付き)の、【偽装結婚】?!  作者: 工藤 でん
第八章 君を手に入れるために

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王子VS悪魔

エディとブラッド、二人だけで直接対話をしたことがなかったので

貴賓室の隣には侍従控え室が備わっている。王族の宿泊用に設えられたものだ。ラヴィリアはご丁寧にその侍従控え室で生活をしていた。

成りきり侍女である。


貴賓室に比べて随分と狭い部屋で、それでも備え付けの家具などはしっかりと揃えられていた。ベッドは綺麗に整えられて、シーツには、シワひとつない。


ベッドの脇にある小さめのチェストの上に、座布団のようなものを敷いて、黒い石が鎮座してあった。ごつごつしたこぶし大の黒い石。光の加減で透明感のある赤に見えるところがある。


……この石が、ブラッド。


見た目はただの黒い石だ。だが、とてつもない力を秘めた恐ろしい相手である。



エドワードはブラッドの前に立った。

自分の働きかけで動いてくれるかはわからない。何せ相手は悪魔である。

それでも、できる限りの『模索』は、してみようと思った。



「……悪魔くん、聞いてるか。

ラヴィが落ち込んでる。今までにないほど落ち込んでる」


黒い石は変わらない。

ただそこにあるだけだ。

エドワードはそのまま言葉を紡いだ。これじゃ独り言だが、構うものか。


悪魔の興味を引かないと、相手にすらしてもらえない。


「行方不明だったカナメが突然見つかった。さらにラヴィが『王族接触拒絶症』をいきなり発症した。俺の王族の血に反応したんだ。

俺のあずかり知らぬところで何かが起こってる。でも何だか全然分からない」


エドワードは一息ついた。

本当に、何が起こっているのだろうか。

悪魔には分かるのだろうか。


「悪魔くんが知っていることを教えて欲しい。ラヴィのために」

「……」

「君の手を借りたいんだ」

「……」

「頼むよ」

「………………我は今、おねむなのだ。邪魔をするな」


なんの前触れもなく、ベッドにはブラッドが寝ていた。

眠そうに半分開いた目は、血のように赤い。捻れた黒い角は枕を突き刺してしまいそうだった。


突然現れたブラッドは、ちらりとエドワードに目を向けた。興味はなさそうだが、姿を現しただけ儲けものだ。



エドワードは悪魔と向き合った。



「……カナメはどういうやつか、教えてくれ」

「我、あいつ嫌い」

「なぜ」

「ラヴィに余計なことしてる。カナメも命令されてやってんだけど」

「何……?」

「カナメは王妃の言いなりだ。家族を人質に取られてる。

我ならそんな家族、いっそ殺しちまうのにな」

「……カナメがやっている、余計ことってなんだ」

「ラヴィに、薬盛ってる。特定の魔法をコントロールする薬。この国の奴は知らねえか」


ブラッドはつまらなそうに大きく欠伸をした。

人には有り得ない鋭い牙が覗いていた。


「カナメは魔法を使えて薬に詳しいから、ラヴィの元に送り込まれた。

カナメの作るあの薬飲むから、ラヴィが臭くなるんだ。だから、我はカナメ嫌い」

「薬……魔法? カナメは魔法使いなのか」

「なんで分かんねえんだ? ほんと、鈍いな」

「悪魔くんは、それをそばで見ていて、なぜ止めない」

「止めるわけがなかろう」

「なぜだ。君はラヴィが好きなんじゃないのか」

「好きだよ。大好き。

だから、どんな風にラヴィが苦しむのか、楽しみで仕方ねえじゃねえか」


ブラッドは実にいい顔で笑った。心の底から楽しげなその顔が、ラヴィリアの苦しみがただの娯楽であると思わせた。


エドワードはひりつくような衝動を必死で抑えた。ブラッドを殴りつけたくてたまらない。無駄に美形なだけに余計腹が立つ。


悪魔なのだ。


ラヴィリアを守っているようで、ただ興味がある対象としてそばにいるだけ。ラヴィリアに興味があるからこそ、ラヴィリアが苦しむ様も楽しみたい。

悪魔の娯楽。ただそれだけなのだ。


ぐふぐふとブラッドは笑った。


「魔法が発動したんだな。カナメの魔法の最終発動だ。『王族接触拒絶症』ってか。くだらねえ」

「……くだらねえ、って!」

「この国のヤツらはさ、魔法について無知すぎだ。やたら武力が強いせいだろうな。魔法はラヴィの国の方が進んでる」

「何言ってんだ……」

「魔法の発動、見たかったなー。惜しいことした。

ラヴィ苦しんだだろ? だって王子が触ると病が発症だもんなあ?

くくくっ、あの綺麗な顔が歪んで苦しむと、めちゃくちゃそそるんだ。泣いたりしたら、そのままヤリたくなるもん。もっと泣かせていい声あげさせてえな。お前もだろ、王子?」

「……一緒に、するな」

「あ、そう。王子とは気が合うと思ったのにな。

……カナメは、死んだな。用が済めば、あいつの心臓が弾け飛ぶように魔法が仕組まれてた。

ひひっ、王妃も用意周到だこと。虫唾が走って心地がいいね」

「……」

「我はおねんねする。もう邪魔すんな」

「最後に、一つ聞かせろ」


エドワードはブラッドを見据えた。

赤い目をした悪魔が、エドワードを見返していた。


「君はラヴィの、敵か味方か?」

「はぁ。

……敵か味方か、ねえ……」

「答えろ」

「神は人間の、敵か? それとも味方か?」

「……」

「なら、悪魔は人間の、敵か? 味方か?」

「……!」

「白黒つけりゃ満足か。クソどうでもいい。

我は我だ。それ以外の何者でもない」




はっと気付いたエドワードは、愕然とする。今の会話が、夢か現か、わからなくなる。



ベッドには誰も寝ていなかった。

きちんとメイキングされたベッドがあるだけだ。この部屋に入ってきた時と同じように、整えられたベッドだった。

チェストの上には拳大の黒い石が、変わらずにそこに置かれていた。



エドワードの心を乱しきった石は、沈黙したまま鎮座していた。

彼らの中で、勝敗はない

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