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アイドル王子(自作自演)と、深窓の姫君(余計なコブ付き)の、【偽装結婚】?!  作者: 工藤 でん
第八章 君を手に入れるために

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カナメ発見

会議が終了して少しだけ時間のあったエドワードは、ラヴィリアを誘って公爵邸の庭園の一角に向かった。今の時期、バラが見事なのである。


赤や黄色、白やピンクのバラが各所で咲き誇り、庭園を華やかに彩っていた。ただし、香りの強すぎる空間が苦手なエドワードは、庭園の端っこにある掘っ建て小屋のような古いガゼボがお気に入りだった。端っこなので全体も見渡せるし、香りもほのかに香る程度。二人でベンチに座り、しばらく花を楽しんだ。


ラヴィリアがバラ園にいると、何もしなくてもそれだけで一幅の絵になった。肩に流れる青みがかったアイスシルバーの髪と、白皙の頬。凛としたアイスブルーの瞳に可憐な唇。背景には透明感のある見事なバラ園。ラヴィリアという人は、どこを切り取っても絵画でしか出会えないお姫様だ。

自分の婚約者を眺めて、エドワードは世の中にはとんでもない美形がいるものだと、改めて思う。


ただラヴィリアの顔は、深く暗く沈み込んでいた。


「ここ、王都で住んでた小屋みたいだろ。やたら落ち着くんだよね」

「そうですね」

「オーサ邸の部屋は、どこもかしこも凝ってるから、圧がすごい。もったいないからそのまま使ってるけどさ。金持ちの趣味はわかんないよ」

「はい」

「でもこのバラ園はすごいなあ。金をかける価値があるかも、と初めて思った。あのカルロスが庭師を解雇しなかったくらいだ」

「……」

「……ラヴィ、何か落ち込んでる?」


エドワードの言葉に、ラヴィリアはチョコレート色の目を見上げ、そのまま俯いた。エドワードが黙ってラヴィリアの手を握った。少し冷たくて乾いた手が心地よい。


「わたくし、何かエディのお役に立ちたいと思ったのですけど」

「うん」

「……お役に立てそうにありません。

政治向きのことはさっぱりですし。港を押さえるとか、戦いにおける物資のこととか、分からないことが多すぎて」

「まあ、女性にはね」

「それこそ王都の小屋にいた頃は、獲物を調達してお料理をしたり、お芋を掘ったり果実を集めたり、鶏のお世話をしてアクセサリーの材料を作ったり、いろいろできていたのですが」

「そうだね。やってたね」

「今のわたくしは、役たたずです。エディのために、何にもできないです。侍女の真似事しかできてない」

「俺の隣にいてくれるじゃん」


エドワードは隣に座ったラヴィリアの額に、こつんと自分の額を当てた。この距離感にも随分慣れた。自分を見つめてくれるアイスブルーの瞳が綺麗だ。自分しかこのラヴィリアは見られないのだと、いつも優越感を感じている。


「ラヴィがいてくれないと、俺はこんなに頑張れないよ。それは分かって欲しい」

「ただお傍にいるだけです」

「それが大事なの。俺のモチベーションの塊なの、君は。

だから、隣に座って手を繋いでくれないと、俺は仕事ができない」

「……よくできた詭弁みたいですよ?」

「本気で言ってるんだけど。伝わってないの?

……ラヴィが俺の言葉を信じてくれない場合、どうすりゃいいんだ」


情けなさそうに言うエドワードに、ラヴィリアは思わず笑った。もう笑った時点で負けだ。拗ねていただけなんだと、自分で思う。


ひょろりとして見えるが筋肉質なエドワードの肩にそっともたれた。エドワードが自分を見下ろしているのがわかった。


「ではこうしてるのも、わたくしの公務でよろしいですか?」

「うん、大事な公務。ラヴィしかできない仕事だ。めっちゃ働いてるじゃん」

「ええ、もちろん。もっと仕事します」

「何?」


ラヴィリアは顔を上げてエドワードに近付いた。エドワードは小さく笑って、ちゅっとラヴィリアに口付けた。


優しく触れるだけのキスは、もう数え切れないくらいした。なのに、毎回新鮮な嬉しさが湧き起こる。

恋をするって素敵なこと。ふやけそうになる顔を笑みの形に留めて、ラヴィリアはエドワードに頭を預けた。



――複数の足音が近づいてきたのは、それからしばらくした後だった。

ラヴィリアとエドワードは顔を見合わせて、居住まいを正した。

カルロスが兵士を数名引き連れてこちらへ向かってきていた。カルロスが兵士連れなど珍しい。よくない予感がよぎった。


「どうした」

「おくつろぎの所、申し訳ありません。

……カナメが見つかりました」

「カナメが……!」

「どこにいたのです?!」

「詳細は、後ほど。ですが、状況が悪い」

「何」


カルロスは厳しい顔でラヴィリアに目を向けた。いつもの穏やかな表情はかけらもなかった。


「カナメには、マリ王国のスパイ容疑がかけられています」






カナメはオーサ領府にあるリンク商会の支部で見つかった。そもそも王都のリンク商会にスパイ容疑がかけられ、支部にまで捜査が入ったという経緯だ。

リンク商会の事務所からは、スファルト王国の機密を含む内容の書簡が複数見つかっていた。……カナメの立場なら手に入りそうな情報だった。





エドワードとラヴィリアはカナメが連行された小部屋に案内された。小さなテーブルと椅子だけがある、殺風景な部屋だった。

カナメは後ろ手に縛られて、椅子に座らされていた。俯いた顔はげっそりと痩せていて、しっかり者だった侍女とは思えないほどやつれていた。服装は平民の女性が身につけるもので、いつも侍女服だったカナメと随分雰囲気が違って見えた。


「カナメッ!」


名を呼んで駆け寄ろうとするラヴィリアを、エドワードが抱き抱えて止めた。エドワードに止められて、ラヴィリアはたたらを踏む。

今となってはカナメは犯罪者だ。近寄らせるわけには行かなかった。


カルロスがカナメの前に静かに立った。



「カナメ、申し開きがあるなら、聞きます」

「……」

「それくらい、あなたには世話になりました。我々もかなり助けられましたし、ラヴィリア姫も、あなたの存在がどれほど心強かったか」

「……」

「容疑はほぼ確定と聞き及んでいます。我々に不利益をもたらした分は、あなたは罪を償わねばなりません。

ですが、情状酌量の余地くらいはあります。我々はできる限りの手を尽くそうと思います」


カナメはゆらりと顔を上げた。黒ずんだ顔色は、リンク商会で良い待遇を受けていたとは思えなかった。服装も垢じみていて、綺麗好きなカナメの片鱗すらない。

焦点の合わない目で、カナメは呟いた。


「……搾取するしか、脳のない人間。王族と、王族の取り巻きとは、そんな人達ばかりだと」

「……カナメ?」

「ラヴィリア様は違った。エドワード王子と、その部下たちも違った。

だから、母国には虚偽の報告をしていました」


カナメは自嘲するように笑った。その暗さが、カナメの心情を物語っていた。


「バレたらどんなことになるかなんて、わかるでしょ。やはり、私は搾取される側の人間で、首輪をつけられた奴隷。逆らうことなんかできやしない」

「……」

「あなたたちは甘いのよ。王都で捕らえられた私が、何故ここにいるのか、考えてみなさいよ」

「……カナメ、何を言っているの?」

「ラヴィリア様、薬湯は毎日飲んでいますか?」

「え? ……ええ」

「残してはダメですよ。毎日必ず飲んでください。

そうしないと、術は完全にはならないのですから」

「…………術?」

「申し訳ございません、ラヴィリア様……申し訳ございません……」


カナメがカチっと、歯を噛み鳴らした。


途端にラヴィリアの足元から、色のない光が弾けた気がした。ほんの一瞬のことで、すぐに光は消えてしまう。

何が起こったか確認する間もなかった。


目の前で、カナメが血を吐いて机にうつ伏せていた。


「毒か?!」

「吐かせろっ」


マシューがカナメに飛びついて口をこじ開けようとした。すぐに違和感を感じて、カナメの胸の辺りに手を置いた。マシューは愕然と呟いた。


「……胸が骨ごと破壊されてる……」

「なんですって!」

「心臓が壊されてる。蘇生は不可能だ。どうなってんだ……」

「外傷はないんですかっ?!」

「ない。どうしたらこんな死に方ができる」

「ラヴィ!!!」


エドワードの切羽詰まった声に、カルロスとマシューは振り返った。



ラヴィリアは喉を押さえて後ずさっていた。恐ろしく顔色が悪い。ひゅーひゅーと呼吸音が激しく鳴っている。肩で息をしているがまったく空気が入っていかないようだった。

片手は頭を押さえている。頭痛も併発しているようだ。額には脂汗が浮いていた。


エドワードはラヴィリアの腕を見た。

ラヴィリアが喉を押さえる手の甲から腕にかけて、赤く発疹ができていた。

……先程エドワードが触れていた、手の形のように。


「ラヴィ!」

「……息が……できません。頭も、痛くて……」

「ゆっくり、ゆっくり息をして!」


エドワードがラヴィリアの頬に触れた。

触れたそばから、ラヴィリアの頬に発疹ができていく。

また一歩、ラヴィリアが後ずさった。



似たような状況を見たことがある。

サミュエル王太子がラヴィリアをバルコニーに閉じ込めた時だ。あの時のラヴィリアは、頭痛と激しい吐き気と蕁麻疹が出ていた。

あの時の状況と、似通っていないか。


エドワードは自分の手のひらを見た。体の中を流れる、王族の血を。


「『王族接触拒絶症』……」

「どうしてエディで反応するの! 先程までなんとも……」

「なんともなかった! ちゃんと触れられてた!」

「とにかくエディ、姫さんから離れろ!」

「やだ! だって……」


ラヴィから離れるなんて。こんなに好きになった人から、離れなくてはいけないなんて。


エドワードはラヴィリアを見た。

ラヴィリアのアイスブルーの瞳から涙が零れた。どうしていいかわからないと全力で訴えていた。

だが、体の不調は現実にラヴィリアを苦しめている。



エドワードは、先程までお互いの想いを確認し、笑いあっていた愛しい相手から、この世で最も聞きたくない言葉を聞いた。



「エディ、来ないで……!」



エドワードの目から光が消えた。

かつてないほどの絶望が、エドワードを襲っていた。


ここにきて、ラヴィの病発症。

さて、エディはどうしようか。


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