黒会議
八章開始します。
怒涛展開になります。
オーサ公爵領から、正式にエドワードの領地となった元オーサ領領府で、幹部会議が行われていた。元オーサ公爵の趣味による、無駄に豪勢な会議室である。
出席者は、エドワード・カルロス・マシュー・マフマクン・ランドレイク・ブレイカー・キースであった。
カルロスが穏やかに会議を進めていた。
「反王太子派は、大体こちら側に取り込みました。そのほとんどがエディを王位継承権一位に推しています」
「北部から西部の貴族たちは、ほぼエドワード王子派になりますね」
「中央と東部はほぼ大貴族たちの所領だから放っていいとして、問題は南部だな」
「王太子派とエディ派の貴族が入り交じってるんですよね」
「南部の一番でかいところが、サウス砦のある、宰相の腰巾着が治めている領地だ。南部の王太子派をまとめられるとやっかいだな」
「キースのやってる海上封鎖はどうなってる?」
「あれか。じわじわきてる、ってとこじゃねえか」
「謙遜。
こちらの手の内にある港を全て把握して、王太子派貴族に所属する船を締め出す、なんてこの短時間では誰にもできないでしょう。
もともとキースは、ノース港だけで収まる器じゃありませんからね」
「しかも一箇所だけ逃げ場を作ったって」
「唯一入港できる港の使用に、がっつりと使用税をかけました。あの港だけでかなりの資金が貯まりますね」
「えげつな」
「王都の庶民たちは物価が高騰して憤ってますが」
「文句あんなら、サミュエル王太子に言えや」
マフマクンやランドレイクなど高位貴族の前でも、ブレイカーとキースの口調は改まらなかった。味方の貴族たちがおおらかでよかったとエドワードは思った。ブレイカーとキースを矯正する方が、骨が折れるのは間違いない。
ラヴィリアはいつものように侍女服でお茶を入れてまわり、静かに壁際で控えている。
先程エドワードは、「てめえオージ、王族の姫さんに侍女仕事させるとは何事だ!」と、事情を知らないキースからゲンコツをくらっていた。キースとブレイカーの中では、出会った頃の若僧からエドワードは成長していないらしい。
そもそも殴りつけてる相手が王族で王子だってことに、キースは気づいているのだろうか。
伯爵位を持つマフマクンとランドレイクも、王族のラヴィリア姫が給仕している姿に度肝を抜かれていた。キースのゲンコツを見て、やはりこれは異常なことであると、安堵感を持って認識したのだ。
エドワードはまだズキズキする頭を振ってカルロスを見た。
「商人たちにも働きかけてるんだろ」
「もちろんです。現在、反サミュエル王太子を理由に、王都への流通を控える商人が続出しております。
さらにこちらにはヴィヴィン商会という大商会がついてますからね。二大貴族の保護下に入り、ソーラ様の身辺の安全も確保出来ました。ヴィヴィン商会からもしっかりとした援助をいただいております」
「……ヴィヴィン商会が、援助だけで終わらすはずないと思う」
「ソーラ様は活動資金として集まったお金を元手に、新たに事業を起こしました。王都へ向かうはずだった、ダブついた物資を円滑に流通させるシステムを作ったのですね。すでに投資分は回収して利益に繋がり始めているかと」
「そういうとこ、うちの母ちゃん超怖い」
「頼りがいがある、というのです。見放されないよう、ちゃんと媚びを売るのですよエディ」
へーい、と適当に返事をしておく。親への媚の売り方なんて見当もつかない。ラヴィリアをお茶の相手に向かわせると、喜ぶらしいが。
そのラヴィリアは壁際で、真剣に会議の話を聞いていた。女性が政治向きのことに参加することは無いが、知っておくことで行動できることもある。エドワードはラヴィリアの真剣さが頼もしい。
ちょうどその時、ノックの音と共に書簡を持った伝令が会議室に現れた。カルロスが手早く書簡を紐解き目を通す。
穏やかな表情が険しく変わった。亜麻色の頭がエドワードに真っ直ぐに向いた。
「エディ、サウス砦が蜂起しました」
「蜂起って……」
「クーデターです。サウス砦を統括していた将軍を捕らえ、兵士たちがサウス砦を占拠、領府に向けて進軍し始めたようです」
「狙いは」
「エドワード王子を支持する民衆と結託し、侯爵一家を拘束して政権を取るという意図でしょう」
カルロスの言葉に、なるほどと頷いたのはキースだ。最近まで南部の海域を動き回っていたキースである。その周辺の情報もよく入ってきていた。
「サウス砦を擁する侯爵領は、ここんとこ領民と役人の間でいざこざが多かった。もともとパルカ王国と接している土地柄、領民も武装して戦うことは当たり前の土地だしな。それゆえに気性も荒い」
「あそこのおっさんたちはさあ。
領府の役人は税金を取るばかりでいけすかねえ、徴兵されている俺たちがテメエらを守ってやってるのによ、という感覚が強いな」
「お、さすがマシュー。だてにサウス砦で『金髪の小悪魔』の二つ名つけられただけのことはある。詳しいねえ」
「サウス砦の改修、一番めんどくさかったのあそこにいるおっさんたちだし。
エディがおっさんたちの間に入って、一緒に飯食って一緒に腹下して、苦しんでさ。それからだもんな。こっちの言うこと聞き始めたの」
「……よくわからんキノコにあたったやつな。なんでかマシューは無事だったヤツ」
「俺自慢の、鉄の胃袋」
エドワードに向けて、マシューはVサインを見せる。ブレイカーは苦笑した。ブレイカーも当時サウス砦にいたが、ちょうどその時パルカ王国からの襲撃があり、出撃していて無事だった。
「クーデター起こしたの、あのおっさんたちだろうな」
「国から送られてくる将軍を真っ先に拘束するあたり、それっぽい」
「エドワード王子が王位継承争いに乗り出した、と聞いて火がついたのでしょう。
もっとも、侯爵領の政権を取ったら、エディにすべて丸投げするつもりじゃないですか?」
「……カルロス、お前もあのおっさん達のこと、よくわかってんね」
「私だって文官のくせに砦内で過ごしていたんですから。あの頃からできることしかしない、とあの人たちは豪語してました。
自分たちの住んでいる所領が、反エドワード派であることは面白くなかったのだと思いますよ」
「そうなの?」
「砦を退出する間際に、『王子がいよいよヤベエってなったら、ここに送ってこい。サウス砦が、エドワード王子を守る』と言ってくれました。
あの頃はいつどうなるか分かりませんでしたから、心強かったですね」
エドワードはサウス砦で共にすごした男たちの顔を思い出していた。イカつくてガラの悪いおっさんが多かった。何度も命令は無視されたし、何度も怒鳴られた。
でもいつの間にか話しかけてくれるようになり、こちらもやりたい事を相談できるようになった。お互いのやりやすい形を模索したら、工事の速度は格段に早くなり、予定より随分早く完了した。
イカつくてとっつきにくいけれど、懐に入ればいくらでも融通を効かせてくれる、気のいい男たちだった。
彼らが自分に期待して動いてくれたのなら、その期待には応えたい。
「マシュー、彼らを援護できないか。力になりたい」
「いくつか方法はあるけど。
領府が抱えている兵団、つまりおっさん達クーデター派の敵な。そこには国から支援物資が向かうと思う。
その物資を止めるとか」
キースが顎を撫でながら軽く頷いた。マシューはさすがだな、と納得感のある頷きだ。
「兵糧攻めだな。理にかなってる。
オージの許可が降りんなら、南にある他領の港、押さえてくるが」
「そんなことできんの? かっこいいですな、キース兄さん!」
「派手に威圧するから、クレームきても知らねえけどな」
「そこは気を使っていただくと嬉しいかな、キース兄さん……」
マシューの戦略としては、輸送経路を押さえることで、敵軍を窮地に陥れる作戦だ。軍隊というのは、浪費するだけで生産性はない。物資が尽きれば戦力は激減する。
個人として最強の戦士であるマシューは、同時にしっかりとした戦略家でもあった。
戦略家と実務家がここまで阿吽の呼吸で動けるとは。
ランドレイクは内心舌を巻いている。
貴族階級ではないというのに、これほどのスケールで事を運べる人財がいるとは思ってもみなかった。そんな人間を手懐けているエドワード王子の懐の深さを改めて感じる。
ランドレイクはふむと一つ頷いた。
「南の港を押さえれば、海上からの物資の補給なども制限がかかる。いい手ですね。
南の港というと、中立派貴族の所領ですから。私とマフマクン伯爵との連名で同時に圧をかけましょうか」
「ランドレイク伯爵、やることが、お黒い……」
「いえ、私なんてまだまだです。王子の副官殿に比べては」
その副官のカルロスが、軽く手を挙げた。
「私からも提案があります。
サウス砦の東側に隣接する貴族領は、エドワード派の子爵です。そこから、サウス砦軍への派兵もお願いしましょう」
「俺の味方とはいえ、派兵までしてくれるか?」
「あそこの子爵はパルカ王国と密貿易していた過去がありまして。その証拠を押さえておりますので、快く派兵してくれるものと」
「エドワード王子、あなたの副官の方が大分お黒いかと」
「カルロスは敵に回してはいけないという、明確な事実」
カルロスは穏やかに微笑んだ。
この男の本質は、とにかく腹の底を徹底的に見せない、というところだ。
その他どす黒いやり取りを交えつつ、会議はつつかなく終了した。
黒さ際立つ副官カルロスw




