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アイドル王子(自作自演)と、深窓の姫君(余計なコブ付き)の、【偽装結婚】?!  作者: 工藤 でん
第七章 再会して、再考して、再燃する

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悪魔との出会い

ラヴィリアはあらためてお茶を淹れ直した。ソーラとマシューの分も含めてだ。

ソーラが持参した『リタさんちのチーズクッキー』も多めに添えた。エドワードの目が少年のようにキラキラしている。どうやらこのクッキーが好物らしかった。


機会があったら、リタさんを紹介してもらってレシピを教えてもらおう、とラヴィリアは誓う。

本日ナンバーワン少年みたいなエディのキラ顔を誘ったクッキーに、軽く嫉妬心が芽生えていた。



「こういう機会でもないと聞けないから、聞いておきたいことがあるんだ」


エドワードがキリッとした真面目な顔でラヴィリアに目を向けた。


さっきまでチーズクッキーを片手に「なつかしー」「これこれ」とか言いながら五枚連続でたいらげていたエドワードである。今更真面目な顔してもしまらねえのに、と思いながらマシューも遠慮なくクッキーに手を伸ばしている。マシューの場合、二枚で一口のペースであった。


ラヴィリアはエドワードの視線を受けて、小首を傾げた。実は心中は複雑だ。


エドワードは、オーサ公爵邸お抱えシェフの用意する茶菓子には、あまり手を出さない人なのである。なのにさっき、これこれ!っとか言いながらクッキー持ってはしゃいでる少年がいなかったか?

ラヴィリアの嫉妬心がメラリと燃え上がる。五枚ですよ、顔も見たこともないリタさん。あのエディが五枚のクッキー。


「ラヴィ、あの上位精霊……もう、悪魔でいいか。

あの悪魔との契約の経緯を知りたい」

「ブラッド、ですわね」

「ラヴィがあの悪魔とつながっている理由が、全く掴めないんだ。出会った時にはすでに当たり前のようにラヴィのそばにいたし」

「確かにな。悪魔と契約している人間なんて、今まで会った事ねえもん。姫さん、あの凶悪な輩を随分手懐けてるし」


マシューがバリバリとチーズクッキーを噛み砕きながら言った。彼はもう十枚どころではない数を食べている。追加でお皿に盛っているのだが、かなり大量に持ち込まれたクッキーのケースが底を見せていた。

そんなことを全く気にせずに伸ばしたマシューの手を、ソーラが無遠慮に叩いた。不満そうに手を引っ込めたマシューに、ただ首を振ってみせる。『金髪の小悪魔』を無言で躾できる人類は、この世でソーラだけだろう。


ラヴィリアはそろーっとマシューの前からクッキーの皿をエドワードに寄せた。エドワードがその場の流れで目の前のクッキーを摘む。

両手でクッキーを持ってぽりぽりと食むエドワードが、ラヴィリアには小動物のように見えた。はうーんかわいいー、とはしゃぐ自分をぐっと堪える。はしゃいでいる場合じゃないというのに………



「そうですよね。悪魔と契約だなんて、誰にとっても奇異なことですものね。

……きちんと、お話しさせていただきます」


ラヴィリアは雑念を振り払い、目を閉じて故郷の景色を思い出した。



山深い、緑に覆われた小さな国。それがマリ王国だ。山間部の村などは急斜面の山肌にへばりつくようにして存在している。

そんな、山しかない辺境の一角に、王族用の邸宅があった。建物自体はさほど大きくはないものの立派なもので、王族の住まいには相応しいものだ。

そんな山奥の別邸に、病気療養としてラヴィリアがやって来た――――



「わたくしは『王族接触拒絶症』を発症して、王族としての公務が難しくなっていました。お兄様やお義姉様、生まれたばかりの王太子殿下の傍に近づくことも叶わなくて。

そこで病気療養のために、別邸に移り住むことになったのです」

「……状況としては、そうなるかな」

「当時は仕方の無いことだと、思っていました。

ですが……あの。わたくし……」


ラヴィリアが話そうとして、躊躇っていることに気付いたエドワードは、ラヴィリアの肩にそっと触れた。

大丈夫、ちゃんと聞くよ。


ラヴィリアはエドワードの目を見て、小さくうなずいた。エドワードがほんの少しの勇気をくれたのだと思った。


「わたくし、あえて目を逸らしていた事がありました。あの当時は気づかないように、ずっと気を使っていたんです」

「なに?」

「……エディのそばで、あからさまなやり取りを見て、そういうことだったのかと腑に落ちました」

「あからさまな、やり取り……?」

「……わたくし、お義姉様に憎まれていたのですね」


ラヴィリアは寂しげにぽつんと呟いた。



マリ王国国王サバートは十一年前、従姉妹にあたるアルグレッドを娶った。サバートと婚約関係にあった侯爵家の娘に不幸があり、急遽婚姻が決まった形だ。その数年後にサバートに王位が継承されて、さらに数年後、王太子が生まれる。ラヴィリアが十三歳の時であった。


「ちょうど王太子殿下が生まれたタイミングで、『王族接触拒絶症』を発症しました。宮廷医師からそう告げられた時には、目の前が真っ暗になりました。

公務はどうやってこなせばいいのか、お兄様やお義姉様と同席しない公務を列挙して、できることできないことを見極めようとしていて」

「ラヴィらしいね」

「でもお義姉様が、仕事はしなくていいからゆっくり療養なさい、と言ってくださったんです。お会いできないので、お手紙でしたけど。

山奥だけれど、水も空気もすばらしい良い環境の別邸があると。そこで過ごせばきっと病もよくなって王宮に帰って来れると」

「ああ」


ラヴィリアはそこで言葉を止めた。美しいアルグレッド王妃のかんばせが目に浮かんだ。あの美しい王妃が自分を労わってくれているのだと、信じていた。


「後で知りました。

そこが十数代前の王により、強大な魔物が封じられた土地であること。魔物を封じるために神殿が置かれ、神殿を管理するために別邸が建てられたこと」

「…………」

「時間とともに神殿の意義が失われ、別邸だけが残り、今に至ること。

強大な魔物は滅ぼしたのではなく、封じられているにすぎないこと。

お義姉様……アルグレッド王妃様は、知っていたんです。あの別邸のある土地が、魔物を封じた穢れた土地だということを。積極的に害そうとしたのではないかもしれないけど、魔物による害がわたくしに及んでも構わないと」

「ラヴィ……」

「マリ王国王位継承権第二位を持つわたくしは、邪魔者だから消えて欲しかったのです。

王位継承権一位の王太子の敵になり得るわたくしは、見えないところに押し込めておこうとしたのですね」


ラヴィリアは泣き笑いのような顔を上げた。悪意に気付かないふりをしても、何も解決できなかった。

気高く美しいアルグレッド王妃は、いつもラヴィリアを気にかけてくれていた。優しい言葉をかけてくれた。その優しげな労りのこもった眼差しでラヴィリアを見つめながら、ラヴィリアを魔物が封じられている別邸に追いやった。やっぱり真実は痛いと、思わされただけだった。


気づかないフリなんて、上手になるものではない。

ラヴィリアへの生活資金はどんどん減らされていった。飢え死にしても構わないと言われているようだった。カナメと何にお金を使い、何を我慢するか真剣に話し合っ た。


今なら分かる。資金の減額も、アルグレッド王妃の差し金だった。



ただし、別邸ではアルグレッド王妃が予想もしなかったことが起こっていた。

悪魔との出会いなのに、ブラッド君が出せなかった……

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